第21話 澄波刀の起源
「ねえ、玄蔵さん」
居間でくつろぐ道場主に、蒼太が声をかけた。
玄蔵の「父親、母親は役割であって名前ではない」という教育方針から、
蒼太は父親を「玄蔵さん」、母親を「緋乃さん」と呼んでいる。
「なんだい、蒼くん?」
「鈴ちゃんが桜さんの刀を見て『直刀だ珍しい』って言ってたんだ。
そう言えば俺も直刀って見たことないなぁと思って。なんで澄波にはないの?」
玄蔵は少し気まずそうに視線を泳がせ、頭を掻いた。
「それはねぇ……僕達夫婦が道場を始めた時、
剣術を志望した弟子達に『僕、直刀の使い方忘れたから、湾刀一択で』って……したから……かな」
「そんな理由なの!?」
思わず大声をあげる蒼太。
澄波の剣士たちが示し合わせたかのように湾刀ばかり使っている裏に、
まさかそんな大雑把すぎる事情があったとは。
「そうなんだよ……。あと、質が悪いようなことも鈴ちゃんが言ってたんだっけ?」
「うん、『なまくら』って言ってた」
「まぁ、澄波は刀と言えば湾刀しか作ってないしねぇ。
それにここは禍つの素材も豊富だからさ。
職人たちが競って鍛えてる『澄波刀』の質が高いのは確かだと思うよ~」
どこか他人事のように笑う玄蔵と、「へぇ……」と呆れ半分で感心する蒼太。
そんな二人のやり取りを、廊下の陰から聞いていた桜は、目を見開いて硬直していた。
(……ちょっと待って。中天州で『直刀』といえば、都の貴族や武人が使う格式高き伝統の業物よ……?
それを剣の師匠が『使い方を忘れたから』って理由で使ってないの!?)
ツッコミたい気持ちが山々だったが、桜の意識は庭の方へと急速に引き戻された。
庭では、緋乃の手ほどきで紫苑が「護身術」の稽古に励んでいた。
「はい、紫苑ちゃん。相手が腕を掴んできたら、腕の力ではなく腰の回転で……こうよ!」
「きゃあッ!?」
ドスンッ!!
綺麗な弧を描いて空を舞い、見事な勢いで畳(庭に敷かれた稽古用の藁マット)に叩きつけられる紫苑。
「お、おひいさまが投げ飛ばされてるぅぁーーーッ!?」
桜は口をあんぐりと開け、驚愕のあまり開いた口が塞がらなくなっていた。
霞条家の至宝、深窓の姫君であられるおひいさまが、泥に塗れて派手に投げ飛ばされている。
しかも、投げ飛ばした緋乃は爽やかな笑顔で「うん、筋が良いわ! もう一回いきましょう!」と容赦がない。
そして紫苑も紫苑で、「はいッ! よろしくお願いします!」と嬉しそうに立ち上がっているのだ。
(ここは……一体なんなの……!?)
常識人である桜の頭痛は、澄波に来てから増すばかりだった。




