第19話 疑惑
「あー、まず始めに言っておきますけど、声をかけたのはあたしですが、殴ったのはあいつです」
「あと運ぶ時、変なとこ触ろうとしたので、あたしが止めました。あいつが悪いんです」
鈴が間髪入れずにズビシッと指をさすと、蒼太が露骨に嫌そうな顔をした。
「ちょ……鈴ちゃん!触ろうとしてないから!変なこと言わないでよ!」
「まぁまぁ、うちの息子がすまないことをしたねぇ」
玄蔵が苦笑いしながら間に入り、仕切り直すように場を和ませた。
名乗り合い、自己紹介を一通り終えたところで、桜は深呼吸をして都での出来事を語り始めた。
霞条家の一行が全滅したという報せに都が大騒ぎになったこと。
そして、娘を失った絶望から当主である藤治様が床に伏せてしまっていること……。
「お父様が……」
紫苑は衝撃に目を見開き、顔からすうっと血の気が引いていく。
自らを庇って散っていった護衛たちの凄惨な末路、そして愛する父の悲嘆。
押し寄せる事実に胸を締め付けられ、言葉を失ってしまう。
(あぁ、しまったな……紫苑ちゃんに聞かせるには少し毒が強すぎたかな……)
玄蔵は紫苑の衰弱しきった表情を気遣うように目配せすると、優しく声をかけた。
「すぐに都へ戻りたい気持ちはわかるけれど、紫苑ちゃんの今の体調で長旅をするのはまだ無理だ。
身体が万全になるまで、もう少しここで休んでいった方がいい」
紫苑を心配そうに見つめる桜も、その提案には大きく頷くしかなかった。
「……わかりました。おひいさまがご無事だと分かった以上、私も焦りは禁物ですね。お世話になります」
桜も澄波に滞在することを承知し、まずは紫苑の回復を優先することで話がまとまった。
◇
その後、紫苑たちが部屋を辞したのを見計らい、玄蔵と大吾は桜だけを居間に呼び戻した。
先ほどとは打って変わり、二人の表情はどこまでも神妙だった。
「桜さん、一つ伝えておかなければならないことがあるんだ」
玄蔵は言葉を選びながら、紫苑が倒れていた時はまるで毒でも盛られていたかの様に衰弱しきっていたことや、
禍つの群れがまるで紫苑を標的にしていたかのように襲いかかってきた疑惑を静かに打ち明けた。
「……禍つが、おひいさまを……?」
桜は思わず眉をひそめた。
「禍つを意図的に操るような術など、私の知る限り聞いたことがありません。ですが……」
そこまで口にして、桜の胸の奥に冷たい毒のような警戒心が急速に広がっていく。
時期外れのワタリ。
通常ではあり得ない禍つの異常な動き。
(……これは単なる事故などではない。
霞条家内部、あるいは都の誰かが仕組んだ『おひいさま暗殺計画』なのかもしれない……)
桜は固く拳を握りしめ、二人の男たちをまっすぐに見据えた。




