第15話 御霊碑 そして導き
桜が中天京を出立して数日。
惨状の残るワタリの現場を目にした時、桜の胸を押し潰したのは絶望以外の何物でもなかった。
あまりにも凄惨な破壊の痕跡。
(それでも……もしかしたら……あそこで会えるかも…)
諦めきれない想いとしがみつくような希望だけを胸に、
桜は現場を通り過ぎ、街道のさらに奥深くへと足を進めた。
目指したのは、承柱の儀が行われるはずだった目的地——『水霊の御霊碑』。
静寂が支配する御霊碑の前にたどり着いた桜だったが、そこに広がる光景に息を呑んだ。
人影はひとつもなく、誰かが立ち寄った気配すら存在しない。
荒らされた痕跡も、儀式が執り行われた気配も、何ひとつとして残っていなかった。
「そんな……。ここへ来られる前におひいさまは……もう……っ」
かすかな望みすら断ち切られ、桜の中で「紫苑の死」はほぼ確定したものとなってしまった。
膝から崩れ落ち、堪えきれなくなった涙がポロポロと溢れ出す。
寂れた御霊碑の前で、桜は声を上げて大きく泣きじゃくった。
涙で視界が歪む中、ふと、すぐ側に立つ一人の女性の姿が目に入った。
「はっ……、み……澪……さん……?」
涙を拭いながら、桜はかすれた声で呟いた。
どこかで見覚えのあるような、美しくも浮世離れした雰囲気を纏う女性。
桜が思わず澪さんと呼んでしまったその女性は、彼女の問いかけには直接答えず、
口許の扇子をパチンと閉じると、静かにあらぬ方向を指し示した。
「あちらに集落がある。行ってみるとよい」
鈴を転がすような、だが不思議と抗えない心地よい声音。
桜はその言葉を聞いた瞬間、
なぜこんな山奥に彼女がいるのかという当然の疑問も、
急に現れた違和感すらも覚えることなく、
吸い寄せられるようにその指し示された方向へとふらりと歩き出した。
ほんの少し歩いて振り返った時には、すでに澪さんと呼んだ女性の姿は消えていた。
けれど桜はそれすら気にとめることもなく、
導かれるように静かな足取りで深緑の奥へと歩みを進めていった。




