第14話 早瀬 桜
『霞条家『承柱の儀』一行、時期外れのワタリに遭遇し全滅。生存者なし』
八雲衆からもたらされた不吉な報せは、瞬く間に都中を駆け巡り、凄まじい衝撃と混乱の渦を巻き起こした。
霞条家当主・藤治の絶望は計り知れず、最愛の娘を失った衝撃から立ち直れずそのまま床に伏してしまった。
主を失った邸宅の灯火は暗く消えかけていた。
そんな中重苦しい空気の中、人目を避けるようにして涙を流し続ける少女がいた。
霞条家の配下として、裏の手配や実働を担う早瀬家の娘・桜(さくら・17歳)。
幼少期、歳の近い紫苑の身の回りの世話役として仕えていた彼女にとって、
紫苑は敬うべき主筋と言うだけではなく、守りたい、心から愛おしい妹のような存在だった。
「やっぱり……おひいさまが亡くなったなんて、信じられないわ……」
何日も枕を濡らした末、桜の瞳に静かな決意の光が宿り始めた。
現場の惨状を聞けば聞くほど、胸をつく違和感が拭えない。
自分のこの目で確かめるまでは、どうしても諦めきれなかったのだ。
桜は実家や霞条家内で騒ぎにならないよう、一番信頼できる侍女へと静かに根回しを行った。
「任務でしばらく遠方へ赴くことになったわ。家内にはそう伝えておいてちょうだい」
手早く旅支度を整えた桜は、都を発つ前にもう一人、伝えるべき人物の顔を思い浮かべた。
(景にいさま……龍胆院検非違使尉には、直接お伝えしておいた方がいいかしら)
幼少期から共に過ごした兄のような存在であり、
紫苑の身を誰よりも案じていた検非違使尉・龍胆院清顕。
彼ならば、捜索の手助けをしてくれるかもしれない。いや、してくれるはずだ。
しかし、検非違使庁を訪ねた桜に返ってきたのは予期せぬ答えだった。
「龍胆院尉なら、急な所用のため八雲へと赴かれておりますよ」
「八雲に……そうですか」
「何かご伝言でもあれば、戻られ次第お伝えいたしましょうか?」
部下の問いかけに、桜はふっと柔らかく微笑み、かぶりを振った。
「いえ、近くで用事があったので、お声をかけようと思っただけですの。
お仕事中にお邪魔をしてしまいましたわね。お気遣いありがとうございます」
何食わぬ顔で礼を言い残すと、桜は迷いのない整った足取りで検非違使庁の敷地をあとにした。
そのまま中天京の門をくぐり、一人、紫苑の足跡を追って都を飛び出していく。
(おひいさま……待っていてください。絶対に、絶対に私がお助けしますから…)
桜の眼差しは、遠くの空を見据えていた。




