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あらはり かくり いまそかり  作者: 零 珊瑚屋
澄波編

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第11話 みずちさま〇〇〇

澄波での生活にもすっかり慣れてきた紫苑。


年下の蒼太に対しては、「蒼太さん」から「蒼太くん」へと呼び方が変わっていた。


それでも育ちの良さと奥ゆかしい性格もあって、呼び捨てにはできないのが彼女らしかった。


一方の蒼太は、幼い頃から澄波の外の世界に興味津々で、


中天京の様子や大貴族の暮らしについてなど、時間を見つけては紫苑に質問攻めにしてきた。


ある日の午後、蒼太が熱心な眼差しで尋ねてくる。


「ねえ、紫苑ちゃん、前から気になってたんだけど……『承柱の儀』って具体的に何をするの?


あと、『みずちさま』ってどんな神様なの?」


「え?水霊様(みずちさま)……ですか!」


その単語を聞いた瞬間、紫苑の瞳がパッと輝いた。


幼少期から学問と神事の教養を叩き込まれてきた紫苑にとって、


みずちさま はいわば専門分野にして大好きな領域だったのだ。


「五重の柱の神話はご存じですか?」


「うん、中天神が五重の柱を諭して守り神になったって話だね」


「水霊様はですね、ただの水の神様ではないのです!


  この中天州の豊かな水脈を束ね、水害を防ぎ、恵みをもたらしてくださる大変尊い御霊でして……!」


いつもは控えめで上品な紫苑が、見たこともない熱量で語り始める。


「水霊の御霊碑で行われる承柱の儀は、霞条家の次期当主がその加護を改めて受け継ぎ、


 土地の平安を祈る最も重要な神事なのです。伝承によれば、


 清らかな水面(みなも)に佇むそのお姿をお見せ下さるとも言われていて……」


夢中で語るうちに、紫苑は自然と身を乗り出し、無意識のうちに蒼太との距離をぐんぐんと詰めていた。


息遣いが聞こえそうなほどの距離になり、紫苑の整った顔が目の前に迫る。


「う、うん……! すごく大切なんだね……!」


蒼太は思わず後ずさりし、顔を少し赤くしながらタジタジと戸惑いの表情を浮かべた。


その蒼太の反応で、紫苑はハッと正気に戻った。


自分がどれほど無防備に接近していたかに気付き、頬が一気にカッと熱くなる。


「あ……っ! ご、ごめんなさい……! 私ったら、つい熱くなってしまって……っ!」


パッと跳びのくように距離を取り、真っ赤になった顔を袖で隠しながら慌ててペコペコと頭を下げる紫苑。


「ううん、大丈夫! すごくわかり易かったし、紫苑ちゃんがみずちさまのこと大好きなんだなって伝わったよ」


蒼太が照れくさそうに頭を掻きながら笑うと、紫苑も恥ずかしそうに、


でも少し嬉しそうに「はい……」と小さく笑みを返したのだった。

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