三十五話「なにか」
翌日。
俺は昨日のことをまだ考えていた。
『ここでは、ない』
あの声はいったい何だったんだろう。
灰魔法を使うと、たまに変なものが見える。
でも、声まで聞こえたのは初めてだった。
「レイ!」
外からセナの声が聞こえる。
「今行く!」
俺は急いで外へ出た。
「遅いよ!」
「ごめんごめん」
「今日は何する?」
「うーん……」
俺は少し考えた。
昨日のことを考えると、また森に行ってみたい。
でも、一人では行きたくない。
「魔法の練習しない?」
「いいよ!」
俺たちは村の外れにある広場へ向かった。
セナは風の魔法を練習している。
「えいっ!」
小さな風が吹く。
「おお、前より強くなってる」
「でしょ?」
セナが嬉しそうに笑う。
俺も手を前に出す。
火を思い浮かべる。
魔力を集める。
「……火」
ポッ。
小さな炎が出る。
「レイも上手くなったね」
「まあね」
俺は少し得意になる。
「じゃあ、もっと大きくしてみようよ」
「やってみる」
俺は魔力を集める。
さっきより多く。
火を大きくするイメージ。
すると――。
ボッ。
炎が少しだけ大きくなった。
「すごい!」
「やった」
魔法を使うのが楽しくなってきた。
でも、ふと昨日のことを思い出す。
灰魔法。
俺は少し離れた場所で、誰にも見られないように手を開いた。
灰を思い浮かべる。
小さな灰が現れる。
昨日と同じように、灰は森の方へ動こうとした。
「……やっぱり」
俺は灰を追いかけるように視線を向ける。
森は静かだった。
何も変わっていない。
「レイ?」
セナがこっちを見る。
俺は慌てて手を閉じた。
「な、何?」
「今、何してたの?」
「魔法の練習」
「火じゃなかったよね?」
「……ちょっと違うやつ」
セナは首を傾げた。
「ふーん」
それ以上は聞かなかった。
助かった。
俺は森を見る。
灰魔法は、森に何かを感じている。
でも、何なのかは分からない。
なら、今は無理に調べなくてもいい。
そう思ったときだった。
森の中から、風が吹いてきた。
木の葉が一斉に揺れる。
そして――。
ほんの一瞬だけ、灰のような白いものが森の奥で舞った。
「……今の」
俺は目を細める。
見間違いかもしれない。
けれど、確かに見えた。
白い何かが、木々の間を横切った。
「セナ」
「なに?」
「今、森の中……何か見えなかった?」
「え?」
セナも森を見る。
「……何も見えないよ」
「そっか」
俺はもう一度森を見る。
何もない。
でも、俺は思った。
昨日聞こえた声。
灰魔法が向かう森。
そして、今見えた白いもの。
全部、偶然なのだろうか。
……まだ分からない。
ただ、森の中に何かがある。
そんな気がしてならなかった。




