三十四話「考え事」
次の日。
俺は朝からずっと、昨日見た映像について考えていた。
暗い森。
灰色の影。
そして、銀色の髪の少女。
転生するときに会った、あの少女。
なぜ彼女が見えたんだ?
森にいるのか?
……いや、そもそも本当に彼女だったのかも分からない。
考えれば考えるほど、分からなくなってくる。
「レイ、朝ごはんよ」
母さんの声で、俺は我に返った。
「はーい!」
俺は部屋を出た。
朝食の席には、父さんも座っていた。
「おはよう、レイ」
「おはよう、父さん」
「今日は静かだな。何かあったか?」
……鋭いな。
普段の俺は、もっと騒がしいらしい。
「ちょっと考えごと」
「考えごと?」
「うん。魔法のこと」
嘘ではない。
ただ、全部を話していないだけだ。
父さんは少し笑った。
「熱心なのはいいことだ。でも、考えすぎるなよ」
「分かってる」
朝食を終え、俺は庭に出た。
昨日と同じように、手のひらを前に出す。
魔力を集める。
灰を思い浮かべる。
すると、指先に小さな灰が浮かんだ。
「……よし」
今度は、すぐに森の方へ向かうことはなかった。
俺は灰をじっと見つめた。
昨日は、この灰を通して映像が見えた。
なら、もう一度できるかもしれない。
俺はゆっくりと指を近づけた。
触れる直前、少しだけためらった。
また、知らない映像が見えるかもしれない。
それでも、確かめたかった。
俺は灰に触れた。
……何も起きない。
「……あれ?」
もう一度触れてみる。
やっぱり何も起きない。
昨日の映像は、偶然だったのだろうか。
そう思ったとき、灰が小さく揺れた。
そして、一瞬だけ頭の中に声が響いた。
『ここでは、ない』
「……え?」
今の声は何だ?
昨日の声とは違う気がする。
短い言葉だった。
けれど、確かに聞こえた。
『ここでは、ない』
何が違うんだ?
場所か?
それとも、探しているものが違うのか?
俺が考え込んでいると、灰は音もなく消えた。
「レイ、何をしているんだ?」
振り返ると、父さんが立っていた。
「魔法の練習」
「そうか。何か分かったか?」
俺は少し迷った。
今の声のことを話すべきだろうか。
でも、説明できることが何もない。
「……まだ、よく分からない」
「焦る必要はないさ」
父さんは俺の隣にしゃがんだ。
「魔法は、使い続けるうちに分かることもある」
「うん」
父さんはそれ以上、何も聞かなかった。
俺も、今は話さないことにした。
灰から聞こえた声。
あれが誰のものなのかは分からない。
ただ、一つだけ気になることがあった。
あの声は、何かを探しているように聞こえた。
そして――。
『ここでは、ない』
その言葉が、いつまでも頭から離れなかった。




