三十三話「聞こえた声」
「……レイ?」
セナが不思議そうに俺の顔を覗き込んだ。
「どうしたの? 急に黙って」
「いや、今……声が聞こえた気がして」
「声?」
セナは森の方を振り返った。
「誰もいないよ?」
「……そうだな」
俺はもう一度、森の奥を見つめた。
さっきの声は、確かに聞こえた。
『……見つけた』
あれは誰の声だったんだ?
灰喰らいなのか。
それとも、別の何かなのか。
考えても分からない。
「レイ、帰ろうよ」
セナが俺の服を引っ張った。
「ああ、ごめん。帰ろう」
俺たちは森を離れた。
帰り道、セナはいつもより口数が少なかった。
「……セナ、怖かった?」
俺が尋ねると、セナは少しだけ頬を膨らませた。
「ちょっとだけ。でも、レイがずっと森を見てるから、もっと怖くなったんだよ」
「あー……ごめん」
「次からは、ちゃんと帰ろうね」
「分かった」
……次がある前提なのか。
いや、俺も気になるから、また来たいとは思っているけど。
家に着くと、母さんが玄関まで迎えに来た。
「おかえりなさい。二人とも、どこに行っていたの?」
「森の入口まで!」
セナが答えた。
母さんは少し驚いた顔をした。
「森に?」
「中には入ってないよ!」
俺は慌てて付け加えた。
母さんは俺たちの顔を交互に見たあと、ほっと息をついた。
「そう。それならいいけれど、森の近くで遊ぶときは気をつけてね」
「うん」
「分かった!」
セナも頷いた。
そのあと、セナは自分の家へ帰っていった。
俺は自分の部屋に戻ると、すぐに手のひらを見つめた。
さっきの声。
あれが灰魔法と関係しているなら、もう一度確かめられるかもしれない。
俺は魔力を集め、灰を思い浮かべた。
指先に、小さな灰が浮かび上がる。
いつもなら、ここで森の方へ動き始める。
だが、今回は違った。
灰はその場に留まっていた。
「……あれ?」
指を動かしてみる。
灰も一緒に動いた。
止めると、灰も止まる。
どうやら、今は自分の意思で動かせるらしい。
少しは成長したな。
そう思った瞬間、灰が小さく震えた。
「……ん?」
次の瞬間。
灰が、窓の方へ飛んでいった。
窓の向こうには、森がある。
「……また森かよ」
俺は窓に近づいた。
灰は窓ガラスの前で止まっていた。
まるで、その先に何かがいると伝えているみたいだった。
そのとき、頭の中に一瞬だけ映像が浮かんだ。
暗い森。
木々の間に立つ、灰色の影。
そして、その影の向こうに――。
誰かの姿が見えた。
銀色の髪。
「……っ!」
映像はすぐに消えた。
俺は息を呑んだ。
今のは、あの少女なのか?
転生するときに会った、あの銀髪の少女。
なぜ、森の映像に彼女が映ったんだ?
灰魔法は、森に何かを感じ取っている。
そして、灰に触れると、知らない景色が見えることがある。
もしかすると――。
この魔法は、ただ灰を出すだけのものじゃない。
俺は指先に浮かぶ灰を見つめた。
「……お前、何を知ってるんだ?」
灰は答えない。
ただ、ゆっくりと消えていった。




