三十一話「灰の行き先」
セナと遊び終えたころには、空が少し赤く染まっていた。
「レイ、また明日ね!」
「うん、また明日!」
セナは手を振りながら帰っていった。
俺も家に戻ろうとしたが、ふと手を止めた。
……そういえば。
今日、灰魔法を使ったときも、灰は森の方へ向かおうとしていた。
前にも何度か同じことがあった。
最初は偶然だと思っていた。
でも、何度も続くとなると、さすがに気になる。
俺は周囲を見渡した。
近くに森がある。
木々の向こうは暗く、夕日もほとんど届いていない。
……何があるんだ?
確かめたい。
けれど、父さんには無理をするなと言われている。
それに、森にはあの灰色の影がいる。
一人で入るのは危険だろう。
「……今日はやめておくか」
俺は森から目を離し、家へ向かった。
家に帰ると、母さんが夕食の準備をしていた。
「おかえり、レイ。セナと遊んできたの?」
「うん!」
「楽しかった?」
「楽しかった!」
母さんは笑って、俺の頭を撫でた。
「それはよかったわね」
……平和だ。
こうしていると、森のことなんて忘れてしまいそうになる。
夕食を食べ終え、自分の部屋に戻る。
俺は手のひらを前に出した。
灰魔法。
今のところ、灰を出すことしかできない。
それでも、あの灰には何かある。
俺は魔力を集め、灰を思い浮かべた。
すると、指先に小さな灰が現れた。
灰はふわりと浮かび、ゆっくりと揺れる。
そして――。
森の方へ、ほんの少しだけ動いた。
「……やっぱり」
風のせいかもしれない。
そう思って、窓を閉めてみた。
もう一度、灰を出す。
今度も灰は、森の方へ動いた。
……風じゃない。
俺は灰を見つめた。
まるで、何かに引っ張られているみたいだ。
森の中に、灰を引き寄せる何かがあるのか?
それとも、灰そのものが森へ向かいたがっているのか?
「……分からん」
考えても答えは出ない。
灰はしばらく浮かんでいたが、やがて音もなく消えた。
俺は窓の外を見る。
夜の森は、昼間よりもずっと暗い。
その奥に何があるのか、今の俺には分からない。
ただ、一つだけ確かなことがある。
灰魔法は、俺が思っている以上に森と深く関係している。
そして、その理由を知るには――。
いつか、あの森の中へ入る必要があるのかもしれない。




