三話「初めての魔法」
あれから、俺は毎日のように魔法の練習をしていた。
といっても、やっていることは単純だ。
「出ろ」
出ない。
次の日。
「出ろ」
出ない。
さらに次の日。
「……出ろ」
出ない。
これを繰り返してる。
「…………」
俺は思った。
おれ魔法の才能ないんじゃないか?
いや、もしくは詠唱とか魔法陣が必要とか?
いやでも父さんは無詠唱な上、魔法陣らしきものもなかった。
「んー」
わからん。
とりあえずもう一回やってみよう。
手を前に出す。
「……出ろ」
何も起きない。
「……出ろ」
やっぱり何も起きない。
指先に力を込める。
「出ろ!」
何も出ない。
「…今日も無理か」
俺は自分の手を見つめた。
おかしい。
父さんは簡単そうに魔法を使っていた。
なのに、俺は何度やっても成功しない。
そもそも魔法って、どうやって使うんだ?
父さんが使っているところを思い出す。
父さんは、火を出すときに迷っていなかった。
手を上げて、魔力を集めて、火を出す。
たったそれだけ。
なら、俺も同じようにやればいい。
もう一度、手を前に出す。
目を閉じる。
魔力を集める。
……魔力って、どこにあるんだ?
「…………」
分からない。
そもそも、魔力を感じたことすらない。
「これで本当に魔法が使えるのか?」
そう思った、その瞬間だった。
指先が――ほんの少しだけ、熱くなった。
「……ん?」
目を開ける。
何もない。
気のせいか?
俺はもう一度、指に意識を集中させた。
さっきまで何も感じなかったのに。
指先だけ、じんわりと熱い。
これは……もしかして。
魔力か?
すると――
指先から、小さな灰色の粒が一つだけ浮かび上がった。
出た!!
「あぅ!あー!」
指を近づける。
「よし、記念として取っておこう」
そう思って、
灰に触れた瞬間――
一瞬だけ知らない場所が頭に浮かぶ。
「…今の何?」
「あ、あう?」
なんだ今の?
いや誰だ。
あの少女か?
いや違う。
男性だった。
顔は見えなかった。
ただ、後ろ姿だけが見えた。
何かを見ている。
その先には――
赤い空が広がっていた。
「……あぅ?」
もう一度、灰を見る。
さっきの景色は、もうどこにもなかった。
もう一度見れるか?
また、さっきと同じようにする。
何も出ない。
「なんでだ?」
何度やっても、灰は出てこない。
さっきは確かに出た。
しかも、触れた瞬間、変な景色まで見えた。
「…もう一度」
全神経を指に集中させる。
「出ろー」
「あうー」
出ない。
なんでだ。
…今日はもう無理か。
そう思って手をおろした、その瞬間。
指先にほんの少しだけ灰が浮かんだ。
「…え?」
ほんの一瞬だった。
今回は、何の景色も見えなかった。
灰はすぐに消えた。
俺は自分の指を見る。
……絶対に出たよな。
もしかして。
灰魔法は自分の思うタイミングで出せないのか?
…だとしたら不便すぎる。
それから俺は何度も練習した。
それから俺は劇的に成長して、
自分のタイミングで出せるようになったーー
というわけではなかった。
結果はほとんど同じだった。
出たり。
出なかったり。
出る量も毎回違う。
それに、出たとしても、あの景色を見ることはできなかった。
魔法ってもっとこう……
「出ろ!」
って言ったら、
思い通り出るものじゃないの?
「うぅ……」
一体この魔法のどこが恐ろしいのだろうか。




