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灰の魔法使い  作者: みつ
第一章「灰と森」
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二話「異世界での第一歩」

そうだ。

俺、赤ん坊になってるんだ。

…まじか

声に出したつもりだった。

「オギャアア」

だが思うように声が出ない。

さっきまで普通に喋ってたのが嘘みたいだ。

それにしても、体がやけに暖かい。

背中に何かが触れている。

……人の手? いや、腕か?

確認したい。

だが、目がうまく開かない。

「大丈夫よ、レイ」

優しい声だ。

母親だろうか?

そう思った瞬間、身体が少し揺れた。

背中に感じていた温かさも、一緒に動く。

……やっぱり。

俺、抱かれてるんだ。

…レイそれが俺の新しい名前か。

名前を呼ばれる。

…なんか変な感じがする。

悪くない。

むしろ気に入った。

「抱いてみる?」

さっきの優しい声だ

「そうだな」

今度は低い声。

…父親だろうか。

体が父親に渡される。

さっきとは違う温かさ。

…それにしても体が軽い。

当たり前か。

今の俺は赤ん坊なのだから。

ほんの少しだけ、目が開いた。

けれど――

何も見えない。

いや、違う。

何かが見える。

ぼんやりとした光。

人のような影。

……まだ、よく見えない。

ろうそくの光のようなものが見える。

LEDなどはないのだろうか。

「…文明はそこまで発達してないみたいだな」

「オ、オギャア」

もう一度、目に力を入れる。

さっきより少しだけ、視界がはっきりした。

目の前に、大きな影がある。

……誰だ?

影の輪郭が、少しずつ見えてくる。

短い髪。

優しそうな目。

「見えるか?レイ」

……この声。

こいつが父親か。

その隣にもう一人いる。

長くて茶色い髪。

そして父親同様穏やかな目つき。

なんというか。

うん。

どっちともめちゃくちゃ綺麗だな。

俺もいずれこれくらい綺麗になるのだろうか?

「フフ、楽しみだ」

おっといけない心の声が漏れてしまった。

「オギャー」

まあ喋れないからいいんだけど。

「元気な声だな」

父親が笑う。

……いや、元気というか。

さっきまで死んでたんだけどな、俺。

「ふふ、あなたに似たのかしら」

「そうか?」

二人が笑う。

……なんだろう。

なんか、いいな。

「レイって名前、やっぱりいいわね」

同感だ。

「そうだな、レイ・アルデル、俺たちの子だ」

レイ・アルデル。

やはりいい名前だ。

それにしても、なんだか眠い。

さっきまで色々考えていたはずなのに、頭がぼんやりしてくる。

……色々ありすぎた。

死んで。

転生して。

赤ん坊になって。

……疲れた。

「おやすみ、レイ」

優しい声だ。

ーーそれから三か月が経った。

この三か月で、いろいろなことが分かった。

まず、俺の父親の名前はエド。

母親はミレア。

そして、どうやらここはルネシアという国らしい。

正式名称をルネシア王国という。

家は木造で、窓はそれほど大きくない。

部屋には見たことのない道具もいくつかある。

そして何より――

魔法が、本当に存在する。

……まあ、まだ俺は使えないけど。

あと、転生した時は疑問に思わなかったが、なぜか言葉がわかる。

いや、正確には「わかる」というより、最初から知っていたような感覚だ。

……転生のときに何かされたのか?

そして、できるようになったこともある。

まずーー

首が動く。

地味だ。

だが赤ん坊として大きな進歩らしい。

次に、手を動かせるようになった。

これも最初は大変だった。

「動け」

……動かない。

「動け!」

少し動いた。

……よし。

そして、寝返りもできるようになった。

最初は偶然だった。

体を動かしていたら、ころんと横を向いた。

……ん?

もう一度やってみる。

ころん。

……できた。

心の中でガッツポーズをした。

それから、両親の顔も見分けられるようになった。

短い髪で、少し低い声。

父親のエド。

長い茶色の髪で、優しい声。

母親のミレア。

今では二人の顔を見るだけで、どちらなのか分かる。

毎日見てるから当然か。

そして――

声を出して、意思表示もできるようになった。

「レイ、お腹すいたの?」

「オギャ」

「眠いの?」

「……」

「違うの?」

「オギャー!」

……どうやら、少しずつ会話ができるようになってきたらしい。

だがまだ「あー」や「うぅー」という声は出せない。

まあ、俺が言ってることが少しでも伝わるならいいんだけど。

ーーでも、まだできないことが一つだけある。

魔法だ。

魔法。

転生したとき、あの少女からもらった魔法。

灰魔法。

一体、どうやって使うんだ?

どうやらこの世界では、魔法が日常的に使われているらしい。

俺がそれを知ったのは、ある日のことだった。

「エド、火をつけてくれる?」

母さんがそう言うと、父さんが手を上げた。

「分かった」

父さんの指先に、小さな光が生まれる。

その光は徐々に大きくなり――

小さな炎へと変わった。

「……」

俺は固まった。

今、何した?

火が……出た?

「よし」

父さんは何事もなかったかのように、その炎を使って暖炉に火をつけた。

……これが魔法。

テレビでも、ゲームでもない。

本物だ。

目の前で魔法が使われている。

俺は興奮していた。

転生したんだ。

異世界に。

そして、この世界には本当に魔法がある。

「……俺もやってみたい」

もちろん、声に出したつもりだった。

「オギャ」

「ふふ、どうしたの?」

母さんが笑う。

……そうだった。

俺はまだ赤ん坊だ。

俺はまだ何もできない。

でも――

魔法だけは違う。

あの少女からもらった。

灰魔法。

俺はまだ一度も使ったことがない。

「……」

どうやって使うんだ?

手を伸ばしてみる。

「オギャ……」

何も起きない。

……まあ、そう簡単にはいかないか。

それでも俺は諦めなかった。

毎日試した。

朝。

「出ろ」

昼。

「出ろ」

夜。

「出ろ」

結果。

何も出ない。

「……オギャ」

悔しい。

赤ん坊だから使えないのか?

それとも、使い方そのものが違うのか?

分からない。

ただ一つだけ分かった。

俺は――

この世界で、魔法を使えるようになりたい。

そしていつか。

あの少女からもらった灰魔法が、どんな魔法なのか。

自分の目で確かめてやる。

そのためにも――

まずは、赤ん坊から卒業しないとな。


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