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灰の魔法使い  作者: みつ
第一章「灰と森」
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一話「転生」

死ぬ瞬間っていうのは、もっとこう劇的なものだと思っていた。

走馬灯が見えたり。

恋人の顔が浮かぶとか。

まあいないんだけど

俺、黒崎蓮27歳

まさかコンビニで酒を買った帰りに、トラックに突っ込まれるなんて、思ってもいなかった。

「もう少し自由に生きたかったな」

胸あたりが熱くて痛い。

だが、だんだんそんな感覚も無くなっていった。

意識も遠のいていった

ーー次の瞬間

白い部屋の中にいた。

いや、部屋ですらないかもしれない。

永遠に続いている。

先が見えない。

「どこだここ?」

死んだのか?

「ごめんなさい」

後ろから、突然声がした。

「うお!?」

振り返る。

そこには悲しそうな顔をした一人の少女がいた。

銀色の髪。

青白色の瞳。

年齢は十六、七歳ぐらいだろう。

すると、彼女は申し訳なさそうな顔で俺を見た

「私のせいで」

私のせい?訳がわからない。

俺の不注意で死んだだけだ。

この少女は悪くない。

「謝らなくていいよ、僕の不注意で死んだだけだから」

「…」

「というか君は…神かなんか?」

少女はちょっと考えてから、口を開いた

「…神と言っても差し障りないでしょう」

神が目の前にいるってことは死んだんだろう。

「あなたを迎えにきました」

「迎えに?」

「はい」

少女は微笑んだ

「あなたは死にました」

「知ってる」

もっと取り乱すと思ってた。

叫んだり。

泣いたり。

怒ったり。

でも何も出てこなかった。

ただ胸に穴が空いたような感じがした。

「話が早いですね」

「終わったのか」

「はい」

あたりを見渡す。

本当に何もない。

死ぬ前まで持っていた。

スマホ。

金。

コンビニ袋。

……カルパス。

「カルパス食べとけばよかったな」

「カルパス?」

「いや、なんでもない」

少女が少しだけ笑った。

「後悔はありますか?」

「…あるよ」

いっぱいある。

知らない場所に行くこと。

 会社を辞めること。

 小説を書くこと。

 昔やってみたかったこと。

 子供の頃に夢見ていたこと。

 全部。

 結局、何一つ大きなことをしなかった。

 毎朝、満員電車に乗って。

 会社へ行って。

 上司に怒鳴られて。

 仕事をして。

 残業して。

 帰宅して。

 適当に飯を食って。

 ゲームをして。

 寝る。

 休日になれば昼まで寝て、またゲーム。

 別に不幸ではなかった。

 友達もいた。

 生活に困っていたわけでもない。

ーーでも、幸せだったかと聞かれたら。

自信を持って幸せだったとは答えられないだろう。

「でも、もう遅いんだろ?」

「ええ」

少女は頷いた。

「ですが」

少女が口を開いた

「もう一度、続けることはできます」

「…え?」

「あなたを転生させます」

数秒黙った。

「異世界転生?」

「はい」

「…本当にあるんだ」

「あります」

「魔法とか?」

「あります」

「勇者とか?」

「います」

「魔王とか?」

「います」

「うん、テンプレじゃん」

「テンプレ?」

「なんでもない」

少女は首を傾げた。

「今度はもっと長く生きてください」

「俺みたいな人が?」

「あなたのような人だからです」

「どゆこと?」

少女は答えなかった

ただ目を伏せて

「生きてください」

とだけ言った

「世界を救えとか言わないの?」

「それはあなたが決めることです」

俺が決めることか。

もっとテンプレみたいな感じで世界を救って。

とか言うかと思ってた。

「あと生まれ変わった後のあなたは赤ん坊です」

「だろうな」

テンプレっぽいのがやっとできた

「もっと焦るのかと思っていました」

「いや、焦ったりしないよ」

少女は不思議そうな顔をした。

「そして最後にあなたに魔法を差し上げます」

少女の手のひらに、黒い光が生まれた。

炎?ではない。

煙でもない。

光なのにどこか暗い。

「魔法」

「はい」

「どういう魔法か聞いても?」

「灰魔法です」

灰?

「地味だな」

「地味です」

少女は微笑んだ

「認めるんだ」

「ですが、この世界で最も恐れられている魔法でもあります」

「なんで?」

少女の表情が変わった。

さっきまでの笑みが消え。

「それはーー」

少女は少しだけ間を置いた。

「いずれあなた自身が知ることになります」

黒い光が近づいてくる。

光が胸に触れた。

「ーーッ!」

全身が焼けるように熱くなった。

 痛い。

 熱い。

 なのに、皮膚が焼けているわけではない。

 もっと深いところ。

 身体の内側。

 魂そのものを掴まれているような感覚だった。

 頭の中に、知らない文字が流れ込んでくる。

 魔法。

 世界。

 生命。

 死。

 記憶。

 再生。

 終焉。

 灰。

 次々と意味だけが理解できる。

 けれど、その仕組みまでは分からない。

 そして最後に、一つの言葉が浮かんだ。

『灰とは、終わりではない』

 誰かの声がした。

『灰とは、始まりである』

「……誰だ?」

 声を出したつもりだった。

 けれど、返事はない。

 視界が暗くなっていく。

少女が何かを言っている。

「あなたが救うべきなのは――」

「この世界だけではありません」

どういう意味だ?

聞き返そうとした。

けれど、声が出ない。

意識が、暗闇へ沈んでいく。

♦︎

「オギャアアアッ!」

……え?

何だ、この声。

俺の声か?

そう思った瞬間、すべてを理解した。

そうだ。

俺、赤ん坊になってるんだ。

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