二十三話「灰の向こう側」
次の日。
昨日見たものが、ずっと頭から離れなかった。
灰の向こうに見えた、誰かの手。
あれは一体なんだったんだ?
夢?
幻?
それとも――灰魔法の力なのか。
「……」
俺は机の前に座って、自分の手を見る。
もう一度、試してみよう。
「……は……い」
指先に意識を集中させる。
ぽっ。
小さな灰が浮かんだ。
「……」
昨日と同じだ。
俺は灰に近づく。
触れてみる。
…………何も起きない。
「……あれ?」
もう一度。
やっぱり何も起きない。
なんなんだ、この魔法。
俺が困っていると、部屋の外から足音が聞こえた。
「レイ、何してるの?」
母さんだ。
「な……んでも……」
「そう?」
母さんが部屋に入ってくる。
俺は慌てて手を下ろした。
「また一人で何かしてたの?」
「う……ん」
「ふふ、最近よく考え事してるわね」
母さんが俺の頭を撫でる。
「……か……あ……さん」
「なあに?」
「ま……ほ……う」
「魔法?」
俺は頷く。
「ま……ほ……う、つ……か……う」
母さんは少し笑った。
「魔法を使いたいの?」
「う……ん」
「レイは魔法が好きなのね」
好きというより、気になるだけなんだけどな。
母さんは少し考えてから言った。
「じゃあ、今度ちゃんと教えてあげようか」
「……ほ……ん……と?」
「ええ」
これは嬉しい。
今まで父さんから少し教わったことはある。
でも、母さんが魔法を教えてくれるなら、何か分かるかもしれない。
特に――
灰魔法について。
俺は自分の手を見る。
あの灰の向こうに見えたもの。
今はまだ、何も分からない。
でも。
少しずつ調べていけばいい。
焦る必要はない。
「た……の……し……み」
「ふふ、そんなに楽しみ?」
「う……ん」
母さんが笑う。
「じゃあ、今日はもう寝ましょう」
「お……や……す……み」
「おやすみ、レイ」
母さんが部屋を出ていく。
俺は布団に入る。
そして目を閉じる。
――その時。
部屋の隅に、小さな灰が一粒だけ浮かんだ。
俺は目を開ける。
「……え?」
灰は、誰にも触れられていないのに――
ゆっくりと、森のある方向へ動いていった。




