二十二話「小さな異変」
次の日。
俺はいつも通り、朝から母さんに抱かれていた。
「レイ、おはよう」
「お……は……」
「おはよう!」
母さんが嬉しそうに笑う。
最近、少しずつ言葉が増えてきた。
とはいっても、まだまだまともには喋れない。
「ご……は……ん」
「お腹すいたの?」
「う……ん」
「ふふ、分かりやすいわね」
俺は母さんから食事をもらいながら、昨日のことを考えていた。
森で見た灰色の影。
あれ以来、灰魔法を使うたびに、少しだけ気になってしまう。
でも――
今日は何も起きていない。
「……」
指先を見る。
灰を出してみよう。
「……は……い」
ほんの少しだけ意識を集中させる。
すると。
ぽっ。
小さな灰が一粒だけ浮かんだ。
「お……」
成功。
最近はだいぶ安定してきた。
前みたいに、出たり出なかったりすることも減っている。
俺は浮かんだ灰を眺める。
昨日の影は、これを見ていた。
……やっぱり気になる。
灰に触れてみる。
――何も起きない。
「……あれ?」
もう一度触る。
やっぱり何も起きない。
昨日は変な景色が見えたのに。
「なん……で……?」
その時だった。
灰が――
ほんの少しだけ動いた。
「……え?」
風はない。
なのに、灰がゆっくりと横へ流れていく。
俺は目で追う。
灰は机の上を少し進んで――
ぴたりと止まった。
「……?」
そこには何もない。
ただの木の机だ。
俺が不思議に思っていると、母さんがこちらを向いた。
「レイ?」
「……な……に?」
「さっきから何を見てるの?」
「……な……んでも……」
そう言いながら、もう一度机を見る。
灰はもう消えていた。
……気のせいだったのか?
それとも。
俺は小さな手を握る。
まだ分からない。
でも、昨日から少しだけ。
灰魔法が変わってきている気がする。
その日の夜。
俺は眠る前に、もう一度だけ灰を出してみた。
ぽっ。
小さな灰が浮かぶ。
そして――
ほんの一瞬。
灰の向こう側に、
誰かの手が見えた。
「……え?」
次の瞬間には、何もなくなっていた。




