二十話「森の中の影」
「……そこ」
俺が指を向ける。
木々の間で、何かが動いた。
「レイ、下がれ」
父さんの声が低くなる。
俺は父さんの後ろへ移動する。
母さんも俺の近くに来た。
森の奥から、ゆっくりと何かが出てくる。
灰色の影。
人のようにも見える。
でも、人間ではない。
「……なんだ、あれ」
父さんが呟く。
灰色の影は、何も言わない。
ただ、こちらを見ている。
俺の指先が熱くなる。
まただ。
灰魔法が反応している。
「……っ」
思わず手を見る。
ほんの少しだけ、灰が浮かんでいる。
すると――
灰色の影が、俺の手を見た。
「……?」
何か知っているのか?
そう思った瞬間。
灰色の影が一歩近づいた。
「止まれ」
父さんが剣を構える。
灰色の影は止まった。
しばらくの間、誰も動かない。
森の中に、風の音だけが響く。
そして――
灰色の影が、ゆっくりと俺を見る。
『……灰』
頭の中に、声が響いた。
「……え?」
思わず声が出る。
父さんが振り返った。
「どうした?」
「な……なん……でも……」
俺は灰色の影を見る。
今の声。
父さんには聞こえていない。
もう一度、頭の中に声が響く。
『……灰は』
そこで声が途切れた。
灰色の影が、森の奥を見る。
そして、ゆっくりと歩き始めた。
「待て!」
父さんが叫ぶ。
だが、灰色の影は振り返らない。
そのまま木々の間へ消えていった。
「……なんだったんだ?」
父さんが呟く。
俺も答えられない。
ただ一つだけ。
あいつが俺の灰魔法に反応していたことだけは分かった。
「……と……う……さん」
「ん?」
「あ……れ……なに?」
父さんは少し考えてから答えた。
「……分からない」
そりゃそうか。
俺も分からない。
でも――
また会う気がする。
なぜか、そんな気がした。




