十九話「森へ」
それから、また少し時間が経った。
俺は前よりも歩けるようになっていた。
まだ長い距離は無理だけど、家の中なら自分で移動できる。
「れ……レイ、こっち」
母さんが少し離れたところから手を広げる。
俺はゆっくり歩く。
一歩。
二歩。
三歩。
「おお……!」
そのまま母さんのところまで行く。
「すごいわ、レイ!」
母さんが俺を抱き上げる。
「ある……いた」
「そうね。ちゃんと歩けたわね」
少しずつだけど、できることが増えている。
そんなある日のことだった。
父さんが玄関で準備をしていた。
斧。
荷物。
それから、少し大きめの袋。
「とう……さん?」
「ああ。今日は森の近くまで行ってくる」
森。
その言葉を聞いた瞬間、俺は父さんのところへ歩いていった。
「も……り?」
「そうだ」
「い……く」
父さんが少し笑う。
「行きたいのか?」
「うん」
「まだ危ないぞ」
「だ……め?」
「うーん……」
父さんが考える。
母さんも近くに来た。
「森の入口までならいいんじゃない?」
「でも、何かあったら……」
「あなたが一緒なんだから大丈夫でしょ」
父さんは少し悩んだあと、俺を見る。
「分かった。ただし、絶対に俺から離れるなよ」
「うん!」
よし。
ついに森へ行ける。
もちろん、奥まで行くわけじゃない。
それでも楽しみだ。
家を出て、村の外へ向かう。
少し歩くと、森がどんどん近くなってきた。
木々が大きい。
風が吹くたびに葉が揺れる。
「……すごい」
「初めて見るか?」
「うん」
父さんが笑う。
「森の中には色んな動物がいる。だけど、勝手に入ったらダメだ」
「わ……かった」
森の入口に近づく。
その瞬間――。
指先が熱くなった。
……まただ。
灰魔法が反応している。
俺は森の奥を見る。
何かいる。
前に感じたものと同じだ。
「とうさん」
「ん?」
「あ……そこ」
俺が木の奥を指差す。
父さんがそちらを見る。
「何か見えたか?」
「わ……かんない」
しばらく父さんが森を見つめる。
「……何もいないな」
やっぱり見えないのか。
そのとき。
森の奥から、カサッという音がした。
父さんの表情が変わる。
「……レイ、下がれ」
「え?」
父さんが俺の前に立つ。
森の中から、何かがゆっくりと近づいてくる。
俺は息を止めた。
灰魔法が、今までにないくらい強く反応している。
そして――。
木々の間から、灰色の何かが姿を現した。




