十七話「森からの帰り道」
家に帰る途中も、俺はずっと森のことを考えていた。
さっき見えたもの。
あれは本当に気のせいだったのだろうか。
灰魔法が反応したことを考えると、ただの見間違いとは思えない。
でも、今の俺には確かめる方法がない。
「レイ、どうしたの?」
母さんが俺の顔を覗き込む。
「も……り」
「森?」
「うん」
「さっきからずっと見てるものね」
俺は森を見る。
やっぱり何もいない。
「な……んにも、いない」
「そうね」
母さんが笑う。
「森には動物もいるから、何か見えたのかもしれないわね」
動物か。
……だったらいいんだけどな。
家に戻ると、父さんが薪を整理していた。
「おかえり」
「ただいま」
「お、ちゃんと言えるようになったな」
父さんが笑う。
俺も少し嬉しくなる。
「とう……さん」
「ん?」
「もり」
「森?」
「なんか……いた」
父さんの手が止まった。
「何かいた?」
「うん」
俺は森のほうを指差す。
「どんなやつだった?」
「……わかん、ない」
さすがに説明できない。
灰みたいな身体。
人間みたいな形。
でも、人間じゃない。
そんなものを説明したところで、信じてもらえるか分からない。
父さんは少し考えたあと、俺の頭を撫でた。
「分かった。今度森へ行くときは、少し気をつけておく」
「うん」
それだけだった。
大騒ぎするわけでもない。
父さんにとっては、子供が森で何かを見たという程度なのだろう。
その日の夜。
俺はベッドの上で、昼間のことを思い出していた。
灰魔法が反応した。
つまり、何か関係がある。
問題は、その何かが何なのか。
俺は手を見つめる。
指先に少しだけ意識を集中させる。
すると――。
小さな灰が一粒、浮かんだ。
「……でた」
灰はゆっくりと宙を漂う。
前より少しだけ、出しやすくなっている気がする。
俺は灰に触れようと指を伸ばした。
その瞬間。
灰が、ふっと消えた。
「……あれ?」
何も起きない。
あの赤い空も見えない。
俺は少し考える。
やっぱり、灰魔法は普通の魔法とは違う。
自分の意思だけでは、全部を操れない。
でも――。
灰が反応する何かが、この世界にはある。
森にいた何かも、その一つなのかもしれない。
「……もっと、しりたい」
そう呟いた。
すると、廊下から足音が聞こえた。
「レイ、まだ起きてるの?」
母さんだ。
「う……ん」
「もう寝る時間よ」
「はーい」
「ふふ、返事だけは一人前ね」
母さんが笑う。
俺は布団に入った。
目を閉じる。
今日は何も分からなかった。
でも、一つだけ分かったことがある。
あの森には、何かがいる。
そして――。
俺の灰魔法は、それを知っている。




