十三話「灰喰らいの目的」
あの映像を見てから、俺はずっと考えていた。
白い空間。
銀色の髪の少女。
そして、あの灰色の存在。
全部が繋がっている。
そんな気がする。
でも、肝心なところが何も分からない。
そもそも、あいつは何のために灰を喰らっているんだ?
俺がそんなことを考えていると、外から声が聞こえた。
「エド!」
昨日の男の声だった。
父さんが外へ出る。
俺も母さんに抱かれて後を追う。
「どうした?」
「森の中で、また見つかった」
男が持っていたのは、昨日と同じような灰色の石だった。
でも、今回は少し違った。
石の表面に、何か文字のようなものが刻まれている。
父さんが石を覗き込む。
「これは……文字か?」
「俺には読めない」
母さんも石を見る。
「私も分からないわ」
俺はその文字を見つめた。
もちろん、俺にも読めない。
でも――。
指先が熱くなった。
また灰魔法だ。
灰が一粒、指先に浮かぶ。
そして文字の上に落ちた。
その瞬間。
頭の中に声が響いた。
知らない声。
低くて、少し苦しそうな声だった。
――返してくれ。
「……あう?」
何を?
次の瞬間、映像が流れ込んできた。
暗い場所。
何もない。
ただ、灰だけが積もっている。
そこに、あの灰色の存在がいた。
そいつは灰を手に取る。
そして、口元へ運ぶ。
また景色が浮かぶ。
知らない家。
知らない人。
知らない子供。
次々と消えていく。
そして最後に――。
何もない場所に、一人だけ立っている姿が見えた。
灰色の身体。
顔は見えない。
そいつは自分の手を見つめている。
まるで、自分が何者なのか分からないように。
そして――。
――俺は、誰だ。
そこで映像が消えた。
俺はしばらく動けなかった。
あいつは――。
自分が何者なのかを探している?
灰を喰らっているのも、そのためなのか?
「レイ?」
母さんの声で我に返る。
「あう……」
俺は灰色の石を見る。
さっきの映像は、今までとは違った。
怖いものというより――。
どこか寂しかった。
あいつは何かを壊したいわけじゃない。
ただ、自分が何者なのか知りたい。
そんな感じがした。
そのとき、父さんが口を開いた。
「この石、森へ返してくる」
「え?」
母さんが驚く。
「危ないんじゃない?」
「だからこそだ。ここに置いておく理由もない」
父さんは石を握った。
俺は思わず手を伸ばす。
「あー!」
父さんが俺を見る。
「どうした?」
俺は石を指差す。
持っていかないでくれ。
まだ分かっていないことがある。
でも、言葉にはできない。
「レイ、気になるの?」
母さんが聞く。
「あう!」
父さんが少し考える。
「……分かった。少しだけ見せておく」
父さんが石を俺の前に持ってくる。
灰が浮かぶ。
今度は映像がない。
ただ――。
石の中から、何かが聞こえた気がした。
――まだ、足りない。
「……」
俺は石を見つめる。
何が足りないんだ?
何を探している?
そして、どうして俺の灰魔法に反応する?
答えはまだ分からない。
でも、一つだけ確かなことがある。
あいつは、俺を敵として見ているわけじゃない。
むしろ――。
俺と何かを共有している。
そんな気がした。




