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第19話 自白書面⑤―暴かれる悪事―

「本日は、我がベルニエ商会の次期開発事業発表会にお集まりいただき、ありがとうございます」


 ラウル商会長が壇上で挨拶をする。


「マルディアス王太子にもきていただき、ありがとうございます。ぜひ、一言挨拶をいただければ幸いでございます」


「王太子のマルディアスだ。ベルニエ商会は公共事業をいくつも手がけていることから、注目をしていた。今後の次期開発事業にも期待している」


 会場が拍手に包まれた。


 そこに突然、招待されていないトビアスが現れた。


「ラウル! お前の不正は全て分かっているぞ」


 会場がざわついた。


「トビアス! お前、王太子も来ている場で、何を騒いでいるんだ! すみません、うちの部下がお騒がせしまして」


 トビアスの上司のグレインが慌てて場を収めようとする。


「いいや、大丈夫ですよ。マルディアス殿下、突然の乱入者申し訳ございません」


 ラウル商会長は落ち着いた様子を見せ、マルディアス王太子に頭を下げる。


「ラウル殿もグレイン殿も、みんな不正を働いている! 入札で二人は癒着していることは分かっているんだ」

「トビアス! いい加減にしろ。自分が不正をしているからって、人のせいにするな」


 グレインがトビアスを叱責する。しかし、トビアスはグレインを鋭くにらみつける。


「僕は不正をしていない。無理やり不正をしていると書かせただけだ」


 マルディアス王太子の近衛兵が、合図を受けて、トビアスの周りを取り囲む。


「……商会の悪評判を流すのは、いただけないな」


 マルディアス王太子がトビアスにゆっくりと話しかける。


「この者を捕らえろ」


 王太子が近衛兵に指示する。


「――お待ちください」


 再び扉が開き、ルーカス様が、マルディアス王太子の指示を止める。


「ルーカス殿! 遅いですよ! 挨拶が終わったら突入するって言っていたのに、見当たらないから一人で突入しちゃったじゃないですか」

「すまない。証拠の最終整理をしていたら遅れた」


「マルディアス殿下。私は、王宮行政庁の商務部で文官をしております。ヴァルデン子爵家のルーカスと申します。トビアスが話している内容について、少し説明させていただけませんか?」

「ルーカス! お前は、誰にもの申しているか分かっているのか!」


 グレインが思わぬ登場人物に慌てている。何を話すのかと不安なのか、その顔は白くなっている。


「ふむ。話してみろ。ただし、くだらない話だったら、どうなるかは覚悟しているのだろうな」

「……はい。承知の上です」


「マルディアス殿下!」


 ラウル商会長が今までの落ち着いた仮面を脱ぎ捨て、急に焦り出す。

 何かまずいことが起こると気づいたのだろう。


「開発事業を行うに当たって、問題は解決してから始めた方がよかろう」

「……」


 ラウルは歯ぎしりをしている。

 ただ、王太子相手には何も反論が出来ずに悔しそうにしている。


「マルディアス殿下。ありがとうございます。ただ、説明は僕よりも、ここにいるミラからさせていただきます」

「……! なっ! お前は何故!」


「ラウル商会長。昨日は手厚いおもてなし、ありがとうございました。でも私、縄抜け得意なんですよ」


 会場は小さくざわめいている。

 あの子は何を言っているの? といった様子だ。


「おもてなしのお礼として、メモをお見せいたしますわ」


 私は、入札記録簿に挟まっていたメモを掲げながら、読み上げる。


 『橋 min 金貨53.2枚  G.I』

 『道路 min 金貨67.4枚 G.I』


「G.I……これは、グレイン様。あなたのことですよね」

「な……!」


「ここに書かれている数字。橋、金貨53.2枚。道路、金貨67.4枚。これは、ベルニエ商会が請け負った公共事業の金額ですよね。そして――公共事業を落札するための最低入札額ですよね」


 私がそう切り出すと、トビアスが資料を取り出して、続けて話し始めた。


「王都の東側にある、去年完成した橋ですが、これはベルニエ商会が公共事業の担当を落札しています。落札価格は金貨53.2枚。そして、行政庁内部で決めていた最低入札額は――金貨53.2枚」


 会場がざわりとする。まだ状況がつかめていない者、話の流れが分かった者、色々な思いが会場中に音となって広がっていく。


「最低入札額というのは、行政庁の内部資料です。もちろん、今はもう入札が終わっているので、最低入札価格を言うのは問題ないですけどね」


 公共事業を行う業者が知りたいのは、最低落札価格だ。

 最低落札価格以下の価格提示であれば、競争のテーブルに乗ることが出来ないし、かといって最低落札価格から著しく離れた価格提示であれば競争には勝ってもビジネスとしては損である。

 なので、当然、最低落札価格は、入札を主催する行政庁内の秘密である。


「同じく去年完成した、王との西門から伸びている大通りの道路。これもベルニエ商会が落札していますね。落札価格は金貨67.4枚。そして行政庁内部で決めていた最低入札価格も――金貨67.4枚です」


 トビアスがそう言い終えると、私が後を引き取るように口を開いた。


「最低入札価格と、先ほどのメモに書かれた価格、全く同じですね。金貨1枚単位まで同じ、しかも一つだけではない。」


 私は、ラウル商会長に一歩近づく。


「この最低入札価額。ラウル商会長は、入札前に、グレイン様から情報を得ていた」

「な、なんことか分からん!」


 ラウル商会長が吠える。


「そして、このメモの金額と同じ金額、つまり最低落札価格と同じ価格で落札をしている。こんな細かな金額を何回も……最低入札額が分かっていなければ出来ないですよね」

「私は知らない!」


 ラウル商会長は汗を流しながらも叫ぶことを辞めない。


「あなたとグレイン殿が二人で会っていたこと、僕を脅迫したこと。これは否定できないぞ!」


 トビアスも加勢する。


「証拠も無いのに適当なことを言うな!」


 ラウル商会長は、トビアスに対しても噛みつく。


「『カステリア様』――グレイン様の奥様のお名前ですよね」


 突然、話を振られたグレイン様は、ビクっとした。


「ベルニエ商会から、カステリア様にコンサル料が支払われていますね」

「……」

「それも、入札が決まった翌日に必ず」


「……グレイン殿の奥方に、コンサルをお願いしていたんだ」


 ラウル商会長が、苦し紛れに答える。


「グレイン殿の奥様が、コンサルタント業務をやっていないことは、調べ済みです」


 ルーカス様が助け船を出してくれた。


「つまり、ラウル商会長は、グレイン様から入札最低額を聞いていた。そして、入札を勝ち取ったお礼として、グレイン様は、奥方名義を使って、ラウル商会長から報酬を受け取っていた、ということです」


「た、たまたまだ! 全てたまたまだ」


 会場の白けた空気も分からず、ラウル商会長は否定する。


「それは無理があるだろう」


 ルーカス様がつぶやく。


「……言い分は、王宮で聞くとしよう」


 騒がしく渦巻いていた声が、マルディアス殿下の一言で断ち切られるように途絶えた。

 その瞬間、場の空気が別のものへと塗り替えられる。先ほどまでの喧噪は、まるで最初から存在をなさなかったかのようだった。未練がましく騒いでいたラウル商会長も口をパクパクさせるだけで声を出すことが出来なかった。

 しかし、すぐに我に返ったかのように、再び叫びだした。


「マルディアス殿下! これは、たまたまが、重なっているだけなのです」


「マルディアス殿下。失礼ながら一言よろしいでしょうか」


 私がラウル商会長の叫びを無視して、マルディアス殿下に申し出た。


「よい。何だ?」

「ありがとうございます。今回の入札不正も許せませんが、一番許せないのは――手抜き工事でございます」

「え? どういうことだ?」


 ルーカス様も驚いている。


 (ルーカス様に報告し忘れていたわ。まぁいいか)


「東側に作った橋。ずいぶん材料が粗悪な品で、安くすませていますね」


 私はラウル商会長の方を見ながら話す。私は感情を抑えるように、敢えて淡々と告げる。


「……!」

「国からは材料費をきちんともらっていましたよね。黙って粗悪な材料を使うなんて、自分の利益ばかりで国民の安全を考えていない! 物を作る人間としてのプライドはないのですか!」


 私は、冷静でいようと自分を押さえつけていたが、胸の奥で限界が弾けて叫んでしまった。

 ルシアン様が私の背中に手を当てる。その温かさで少しだけ落ち着くことが出来た。


「以前、担当した橋の強度なども調べ直した方がよいかもですね」


「……お前たち。ラウルとグレインを捕らえよ」


 マルディアス殿下が衛兵らに指示を出す。


「お待ちください! 殿下!」

「……私の顔に泥を塗ったな。タダですむと思うな。連れて行け!」


 衛兵らが即座に動き、ラウル達に抵抗の余地すら与えないまま引きずられていく。

 マルディアス殿下はそれを見とどけると、わずかに目を細めた。価値のないものとして処理を終えたように息を吐く。

 そして何事もなかったかのように、こちらへと向き直る。


「ミラと申したな」

「はい。殿下」

「事業が始まってしまったら、もっと大問題になっていただろう。感謝する」

「ありがたきお言葉です」


「ルーカス、それにトビアスにも感謝する」


 ルーカス様らは頭を下げる。


「特にトビアスの勇気ある告発。これからも国のために勇気もって行動を頼む」

「ありがたきお言葉です!」


 トビアス様は、マルディアス王太子からの思わぬ言葉に泣いている。

 今まで張り詰めていたものから解き放たれた感情もあるのだろう。

 無事に事件が解決したことで、私もホッとため息をついた。


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