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第14話 警備記録―ルーカス捕獲予定と衛兵の賭け―

 その日、ルーカスは同僚のヘンリーと、そして衛兵の男一人を交えて酒を飲んでいた。

 ランプの灯りでやや薄暗い店内とは対照的に、ルーカスの顔は明るかった。


「お前、今日はいつもと違って、ウキウキだな」


 ヘンリーの言葉に、ルーカスは隠しきれない笑みを浮かべた。


「分かる? いやー、心配ごとがなくなったっていうかさ」

「何? ミラ嬢のことか?」

「なんで分かるんだよ?!」 


 即答してしまい、ルーカスは自分でも慌てた様子でグラスを持ち直す。

 ヘンリーはあきれたように肩をすくめた。


「だって、お前、最近それしか話していないじゃないか。仕事かミラ嬢か、そのどっちかだ」


 そこへ、隣に座っていた衛兵がぼそりと口をはさんだ。


「……それ、警備局の中でも有名ですよ」

「え?」

 

 ルーカスが固まる。衛兵は淡々と続けた。


「ルーカス様は『ミラ嬢が来たら教えろ』って、周囲に言い回っていますよね」

「言いまわってない! 頼んでいるだけだよ!」

「ほぼ同じだって」とヘンリーが即座に切り捨てる。


 ルーカスは真剣な顔で首を振った。


「いや、違う。あれはその……安全管理というか、商務部としての業務の一環で」

「どの業務だよ」とヘンリーが即座に突っ込む。


 衛兵はさらに追い打ちをかけるように続けた。


「ちなみに今、賭けになっています」

「……賭け?」

 

 ルーカスが目を瞬かせる。衛兵は少しだけ視線を逸らしながら言った。


「警備局の間で、『ルーカス様がいつ捕まるか』って」

「捕まる?!」


 ルーカスの声が一段と高くなる。

 ヘンリーは笑いを耐え切れず、肩を震わせた。


「お前、もう完全に、やばい人扱いだな。もう捕まる前提で見られているじゃないか」

「待て。俺は何もしてないぞ!」

「してるから、問題なんだろう」とヘンリーは即答する。

 

衛兵も小さくうなずいた。


「見た目は完璧なんですけど。まさか中身がちょっと残念だったとは、とみんなで言っています」

「そこまで言うか?!」


 ルーカスは頭を抱えた。

 だが、すぐに顔を上げると、少しだけ真剣な表情になる。


「いや、でもさ……ミラが突然、行政庁に来ることってあるからさ」

 

 その一言で、ヘンリーが完全にあきれ顔になる。


「まだ言うか」

「だって、大事なことだろ」


 衛兵は静かにグラスを置いた。

 

「ちなみに賭けの人気は『今月中に捕まる』が一番高いです」

「やめろ、その具体的な数字!」

「あと、ガレス衛兵長は『今週中に捕まる』に賭けていました」


 ルーカスは完全に崩れ落ちるようにテーブルに額をつけた。

 しばらく沈黙が流れたあと、ヘンリーが小さく笑いながら言う。


「まぁ、気をつけろよ。お前、見た目だけはいいんだから」

「見た目『だけ』を強調するなよ!」


 その横で衛兵がポツリと付け加えた。


「この前の詐欺男を捕まえに行ったとき、僕も初めてお見かけしましたけど、行動は勇ましいけど、可愛らしい方ですね」

「だよな? ミラは、若くて可愛らしいけど、大胆な行動力と鋭い考察力があって。それに……」

「はいストップ! ルーカスがこの話をしたら長くなるんだから」

 

 ヘンリーがルーカスの言葉を遮る。

 ルーカスは、ぶつぶつ言いながらも、どこか嬉しそうだ。


「ちなみに、衛兵局の中では『自爆発言したら即捕獲しよう』という共通認識もあります」

「何でだよ!」


 店の中に笑い声が混ざった。

 ルーカスだけが、どこか納得いかない顔のままグラスを握っていた。



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