表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拝啓、都市の中から  作者: 畑野けう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/15

目覚めと勧誘


 眩しい。目蓋の裏から暖かな光を感じて、ふわりと意識が浮上する。

頭がぼやけてうまく働かない。

はっきりしない思考の中でゆっくりと体を起こす。


 寝かされていた黒い革張りのソファは草臥れているからか、見た目に反して柔らかく沈んだ。

スプリングがぎしりと軋む音とともに床に足をつける。

立ち上がるのは面倒で、所々色の剥げたソファの背面に身を預けた。



 奇妙な部屋だ。

目の前の長方形をしたローテーブルには飲みかけの缶やら瓶やらコップたちがごちゃごちゃと置かれ酷い有り様である。

壁際には何に使うのか分からない置物がずらりと並ぶ。

細々とした物が納められたガラスケースの上では、得体の知れない小動物の剥製がクッションに鎮座している。

ビーズのような丸々とした瞳がこちらを覗いているようで、気味が悪くなり目をそらした。



 一通り見回して意識がはっきりしてきたところで、がやがやとしたノイズに気付く。

そちらに顔を向けると、日の差し込む窓の真下に置かれたテレビが見えた。

つけっぱなしの画面でニュースキャスターの滑らかな声が今朝のトピックを話している。今は朝。

半年前に仕事だからと自前のBoardを取り上げられて以来、電化製品を見るのは久しぶりだった。


 何ともなしにニュースを眺める。

ありふれた行方不明の話から報道が切り替わり、速報が入った。近隣の港で起こった船の炎上事件らしい。

見覚えしかない場所に船の外観。

明るいところで見たことはなかったし、焼け焦げて所々凹んではいたものの、それでも半年勤めた船だ。

よく似た別物という訳ではなさそうだった。




『……警邏隊の捜査によりますとエンジン部からの発火が炎上の原因と見られています。着港目前であったことから、全ての乗組員が速やかに海上から陸地への避難を済ませました。怪我人はいないとのことです。また、引き揚げられたコンテナからはおよそ二十人の労働者が発見され、警邏隊はそのうち数名が近年発生していた行方不明者と合致するとして調査を進めています。いずれも命に別状はないと……』


「…………え?」

 港のすぐ側だったから全員無事に避難して、怪我人も死者もゼロ。

画面の向こうでそう語るアナウンサーと比べて間抜けな声がぽつりと落ちた。

あんなに焦って迷って結局全部が無駄だったとは。取り越し苦労に肩が落ちる。




「全員無事だと。良かったじゃないか」

 ほっとしたようながっかりしたような複雑な心境の中で話しかけてきたのは、いつの間にか背後に佇んでいた彼女。初めて会った時も思ったが本当に気配がしない。

危うく叫びそうになった。


「知ってたのなら教えてくださいよ。無駄に焦ったじゃないですか」

「教えても信じそうになかったんでな。実力行使というやつだ」

「それは……まぁ」


 正直否定はできない。

気が動転している時の判断力のなさはここ半年で既に実感している。話題を変えて、生じた気まずさの払拭を試みる。



「それで、ここどこですか?なんか僕行方不明扱いになってるんですけど」


 指差したテレビの画面には、一人だけ行方が分からないとして捜索対象になっている自分の似顔絵が映る。

あんまり似てない。描いたやつの絵心を疑う。



『コンテナから出てって帰ってこないんで、オレてっきり先に逃げたもんだと思ってたんすよォ!でも、港でも誰も見てないって……こんな顔のやつなんすけどォ』



 オマエか。まあ芸術を理解してそうな男ではなかったな。生きててよかったけどさ。



「ここは私の事務所だ。気を失っていたから、そのまま拐ってきた」

「まさかの誘拐宣言。何で?」

「だってアンタ、行く宛無いだろう?もっとマシな選択肢もあったろうにわざわざあの船を選んだんだ」

「そりゃ騙されてたんで……結局一文無しですし」

「そこでだ。アンタ、うちで働かないか」

「…………ここで?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ