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第21話 レンペル戦


 雷の剣を握るライリーを見て、

 レンペルは――

 初めて、眉をひそめた。


「……これは、まずい」


 冗談めいた口調ではない。

 計算の狂いを悟った声だった。


 次の瞬間。


 ライリーが、

 消える。


 床を蹴った音すら、

 遅れて届く。


 雷剣が、

 一直線に――

 レンペルへ迫った。


「――速いっ!」


 レンペルは、

 即座に魔力を解放する。


 ドンッ!


 空間が、

 爆ぜた。


 衝撃ではない。

 圧力。


 魔力そのものが、

 壁となって

 ライリーを押し返す。


「……っ!」


 雷剣が、

 弾かれる。


 地面を削りながら、

 ライリーの身体が

 横へ流された。


 その余波が――

 後方まで届く。


「きゃあっ!」


 サリアが、

 思わず悲鳴を上げた。


 瞬間。


 ラルヴィクが、

 一歩前に出る。


 何も派手なことはしない。

 ただ――

 立つ。


 彼の前で、

 魔力の圧が

 不自然に“止まった”。


 サリアは、

 息を詰めたまま、

 その背中を見る。


 ラルヴィクは、

 振り返らずに言った。


「大丈夫だ」


 そして、

 前を見据える。


「……なかなか、

 手強いぞ」


 低く、

 しかし確かな声。


「ライリー」


 雷鳴が、

 再び走る。


 ライリーは、

 体勢を立て直し、

 口角を上げた。


「ですね」


 悔しそうではない。

 むしろ――

 楽しそうだ。


「でも――

 やっと、

 本気を出してくれました」


 レンペルは、

 肩を回す。


 解放された魔力が、

 空気を歪める。


「あなた方、

 本当に厄介ですね」


 視線が、

 三人を順に捉える。


「雷鳴、

 静寂……」


 そして、

 サリアを見る。


「その後ろの少女」


 口元が、

 歪む。


「……守る対象がある分、

 戦いにくいでしょう?」


 レンペルの視線が、

 ふっと――

 横に滑った。


 向かう先は、

 後方。


 サリア。


「……っ!」


 空気が、

 変わる。


 狙いが、

 切り替わったことを

 ラルヴィクは即座に悟った。


 だが――

 動いたのは、

 ライリーの方が早い。


「させるもんですか!」


 雷が弾ける。


 地を蹴る音と、

 雷鳴が

 ほぼ同時に響いた。


 次の瞬間、

 ライリーの身体が

 レンペルの懐へ滑り込む。


「――っ!」


 鋭い蹴り。


 雷を纏った脚が、

 魔人の腹部を

 真正面から捉えた。


 ドンッ!


 鈍い衝撃音。


 レンペルの身体が、

 空中を横切り、

 岩壁に叩きつけられる。


「……あぁ……」


 壁に手をつき、

 ゆっくりと立ち上がる。


 その表情から、

 余裕が消えていた。


「……厄介な相手だ」


 低く、

 吐き捨てるように。


「王宮魔道士……!」


 魔力が、

 一気に噴き上がる。


 ダンジョン内部の空気が、

 重く、

 粘つく。


 サリアは、

 思わず胸を押さえた。


(……なに、これ……)


 息が、

 浅くなる。


 寒くはない。

 だが、

 肌に――

 鳥肌が立つ。


(……いや……)


(ここに、

 いたくない……)


 足が、

 無意識に後ずさる。


 その瞬間。


 視界の端で、

 細い光が走った。


 ラルヴィクの魔力。


 糸のように細く、

 だが無数に。


 それが――

 サリアとラルヴィクを

 丸く包み込む。


 次の瞬間。


「……はっ……!」


 空気が、

 戻った。


「はぁ……っ、

 はぁ……っ……」


 サリアは、

 大きく息を吸い込む。


 肺が、

 きちんと膨らむ感覚。


 ラルヴィクの背中が、

 すぐ前にある。


 動かない。

 揺れない。


「……大丈夫だ」


 振り返らずに、

 そう言った。


 その声は、

 不思議なほど

 落ち着いていた。


 レンペルは、

 その様子を見て

 舌打ちする。


「……守りながら戦うとは」


「やはり、

 厄介ですね……」


 魔力が、

 さらに濃くなる。


 ダンジョンそのものが、

 レンペルの感情に

 引きずられているかのようだった。


 ライリーが、

 雷剣を構え直す。


「師匠」


 短く、

 だが力強く。


「次は、

 逃がしません」


 雷と魔力が、

 正面からぶつかり合う。


 ライリーの雷剣が閃けば、

 レンペルの魔力が壁となって弾き返す。


 互いに、一歩も引かない。


「……っ!」


 ライリーの息が荒くなる。


 速さも、

 威力も、

 拮抗していた。


 レンペルは歯を噛みしめ、

 わずかに後退する。


「……厄介ですね……」


 次の瞬間、

 彼の魔力が――

 歪んだ。


「――真実を告げる魔法」


 低く、

 しかしはっきりと。


「最大出力です!」


 レンペルの目が、

 狂気を帯びる。


「……狂いなさい!」


 空気が、

 一気に捻じ曲がる。


 ライリーの胸を、

 何かが――

 直接、掴んだ。


「……っ……!」


 言葉が、

 抑えきれず溢れ出す。


「師匠……!」


 声が震える。


「好き……!」


 止まらない。


「もっと……

 私を見てください!」


「本当に……

 本当に大好きなんです!」


 洞窟に、

 その声が響いた。


 ライリーの顔が、

 一瞬で真っ赤に染まる。


「……っ!」


 歯を食いしばる。


 恥ずかしさ。

 悔しさ。

 それでも――

 逃げない。


(……言わせるな……)


 だが、

 覚悟は決まった。


 次の瞬間。


 ライリーの身体が、

 青白く発光する。


 雷が、

 彼女の内側から

 溢れ出した。


 部屋全体が、

 稲光に包まれる。


「――終わりです!」


 轟音。


 雷が、

 一点に収束し――

 レンペルの腹部を

 貫いた。


「……が……っ……」


 魔人の身体が、

 弓なりに反り、

 そのまま崩れ落ちる。


 雷は、

 そこで止まった。


 静寂。


 ライリーは、

 その場に立ち尽くし――

 膝から崩れた。


 涙が、

 止まらない。


「……うぅ……」


 ラルヴィクは、

 少しだけ間を置いた。


 言葉を、

 選ぶ。


「……俺も」


 静かに。


「ライリーのことは、

 好きだぞ」


 ライリーは、

 涙目のまま

 顔を上げた。


「……そういうのじゃ、

 ないんですよ……」


 声が、

 かすれる。


 サリアは、

 二人を見つめながら

 唇を噛む。


(……今、

 私が何か言うべき?)


 だが、

 答えは出ない。


 崩れ落ちたレンペルの向こうで、

 ダンジョンコアが

 不規則に脈打っていた。


 戦いは、

 終わった。


 雷の残光が、

 完全に消えた後。


 洞窟には、

 奇妙な静けさが残っていた。


 ライリーは、

 しばらくその場に立ち尽くし――

 自分の頬を、

 ぺちんと軽く叩いた。


「……よし」


 いつもの調子で、

 声を出そうとする。


 だが――

 少しだけ、

 元気が足りない。


「とりあえず……

 ダンジョンコアの処理ですね~!」


 明るく言った直後、

 視線が、

 ふと下に落ちる。


「……でも」


 小さく、

 呟く。


「師匠が、

 もっと加勢してくれてたら……」


 言葉が、

 途中で途切れる。


「……あんな風に、

 恥ずかしいこと……」


 肩が、

 わずかに落ちた。


 ラルヴィクは、

 すぐには答えなかった。


 倒れたレンペルから、

 コアへ視線を移し――

 少しだけ、

 間を置く。


「……すまん」


 低い声。


 ライリーが、

 驚いて顔を上げる。


「お前の――

 成長も、

 見たかった」


 余計な言葉は、

 足さない。


 だが――

 それで十分だった。


「……っ」


 ライリーは、

 一瞬だけ目を見開き、

 すぐに視線を逸らした。


「……ずるいですよ、

 そういう言い方」


 口元が、

 少しだけ緩む。


「……次は、

 ちゃんと一緒に戦ってください」


「ああ」


 短く、

 だが確かな返事。


 サリアは、

 二人のやり取りを

 静かに見守っていた。


 言葉は少ない。

 だが、

 確かに通じている。


「……では」


 ライリーが、

 気持ちを切り替えるように

 大きく息を吸う。


「改めて!」


「ダンジョンコアの

 処理に入りましょう!」


 三人は、

 再び歩き出す。


 戦いの後に残ったのは、

 疲労と、

 少しの照れと、

 それでも消えない信頼だった。


 静寂と雷鳴は、

 今度こそ並んで仕事をする。


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