40.裏山探検に出発です
週末はいよいよ初実戦だ。
この世界にやってきた翌朝の校内散策で見つけた管理森林エリア入り口の鉄格子前が集合場所に指定された。何しろみんなバラバラなところから集まってくるから、目的地現地集合が一番効率的だったわけだ。寮住まいの3人ですら、全員違う寮だからな。男子寮と女子寮と独身寮で。
朝食を済ませて集合場所に1時間前一番乗りしたそこからは、部活を楽しむ人々がすでに活動を始めているのが見えた。みんな朝から元気だな。朝食前のジョギング中にはいなかったから、寮に引っ込んでいるわずかな間に集まって来たのだろう。
本日の俺の姿は、この世界では馴染みがないだろうと自覚がある珍しい見た目になっている。俺と一緒にやってきたスポーツバッグに入っていた、愛用の道着一式だ。肌着こそTシャツを使っていたからこちら素材の肌着を使っているが、小袖に袴を着けて、こちら仕様の胸当てを上から身に付ける。森に入るのだから足元はソールの厚い森歩き仕様のブーツなので、どうにも俺の目にはチグハグに見えるが、まぁ仕方ない。剣帯に鞘を括って、頭に鉢金巻いて完成だ。
そんなわけで。
「森に入るにしてはずいぶんと軽装だね」
適当に座り込んで、柄巻きが間に合わなかったので代わりに自分の手に細く切ったサラシを巻いてテーピングしていたところに、声がかけられた。見上げたら、以前もここで会った先輩だった。
「おはようございます、ニコル会長」
ここで会ったから思い出したわけだが。俺がこの世界で出会った第一学生さんは、学生会長でエイダの従兄弟な侯爵子息様だったようだ。中学院受験生といわれた件、忘れてないぞ。
しかし、以前もここで会ったことを考えると、彼のこの場所の出没率は高いのだろう。テリトリーかね。
「部活ですか?」
「うん。平日の放課後は学生会の方で忙しいから、休日くらいはね」
「大変ですねぇ」
「そうでもないよ。どちらも楽しんでるからね。リツくんはこれから狩りだね。頑張って」
じゃあね、と手を振って颯爽と去っていくのでそのまま見送ってしまったのだが。そういえば、何の部活なんだろうな。聞きそびれた。
見送っている間に今度は反対側からさっきと似た声がかかるわけだが。
「おはよう。早いな、リツ」
「うん、おはよう。ニコル会長、行っちゃうぞ?」
「あ? 良いんだよ。今朝会ってここまで送ってもらった」
そのわりには登場が時間差なわけですが。不思議な従兄弟関係だな。冷めてるのか仲が良いのか、どちらにも見える。俺にも親にも兄弟がいないから実感がないだけかね。
せっかく朝早く来たのだし、準備運動に付き合ってもらうことにする。俺には全く原理が分からない魔術で防御してもらって、真新しい愛刀で打ち込み稽古だ。まだ身に馴染んでいないので、重さも間合いも慣れが要るのだ。
時折エイダからも打ち込まれるのを避けながら一頻り身体を動かしているうちに、約束の時間が迫ったようでそれぞれに集まってくる。みんな、距離を取りすぎなくらい距離を置いて立ち止まるんだが。俺の腕はそんなに長くないから、そんなところまで届かないぞ。
最後にやってきたのは、レイン教授だ。Cランク推薦の前に実力を見ておきたい、と同行を依頼されていたのだ。快諾したのは俺ではなく、エイダとドイトだった。
「お、揃ってるな。朝から元気で結構結構」
ずっと毛むくじゃらで通していたレイン教授は、今日は髭もなく髪もまとめられてずいぶんとすっきりしていた。こうしてみると、聞いていた年齢相応、いや少し若く見えるか。ちなみにロベルトさんと同年代だそうだ。
みんなの装備を見回すと、俺の軽装もそんなに目立たない程度にみんな軽装だった。ドイトだけは壁役らしく重装備だが、革鎧なのでまだ軽い方だろう。背負った盾だけはしっかりデカい。軽装パーティーの壁役は、その負った役割はとても重要だった。俺を抜いても4人分の命がその盾にかかっているわけだ。
結果的に学生パーティーの引率になったレイン教授も、革鎧の上にジャケットを羽織って、頭は兜ではなく帽子だし、俺の格好をとやかく言えない軽装だった。背負ったバスタードソードがなければ地球でもいそうな探検家装備なのだ。これで、Aランクのアタッカーだというから驚いてしまう。いや、俺こそ他人の事を言ってはマズいか。
移動中の並び順を軽く打ち合わせた後、斥候を担うエイダが先頭に立って、それでは本日の探検に出発だ。
エイダの後ろにドイトと並んで、俺は初めての森に足を踏み入れた。




