38.形見を魔道具化しました
翌日の放課後も俺はレイン教授と一緒だった。魔法陣を彫りたい魔石があったためだ。
持ち込んだのは、リョー兄ちゃんの形見になってしまった約束の腕輪だ。ずっと日本で使っていた通学カバンにしまってあったもので、日本の学校はアクセサリー禁止で身に付けられなかったので、せめて普段からそばにある通学カバンに忍ばせて持ち運んでいたため、一緒にこちらに来てくれた品である。
半年だけ日本にいたリョー兄ちゃんが、こちらに帰る際に俺が駄々をこねたために再会の約束の証にとくれた、魔石で作られたブレスレットなのだが、地球にある間に魔素が抜けてしまったようでずいぶんと色がくすんでしまった一品なのだ。なお、魔素充填機で復活済みだ。
メインになる真っ赤な魔石とそれよりは小さい赤系統の魔石で作られた、数珠繋ぎでできたブレスレットで、身に付けると腕が目立つのが難点ではあるが、魔石としての役割以上にアクセサリーとして丁寧に作られたものだ。
それを見て、レイン教授は口をポッカリ開けて驚いていたが。
「まさかこんなところで実物をみることができるとは! リツくん! これは超古代文明時代のギルド証だよ!!」
「へぇ……? あ、てことは、リョー兄ちゃんも冒険者してたんですね。これ、くれて大丈夫だったのかな」
「料金はかかるけど再発行は可能だから問題なかったんだろうね。そのギルド証はね、他人に託した場合は自分の代理人であるという意味を持つんだよ。事故なんかで身動き取れなくなった場合に色々な手続きを頼むのに使われる。つまり、君は現在リョーテエイデルアンデリア師の正式な代理人だ。研究所の継承者としてどこからも文句の出ない立場ということになる。大事にするんだよ」
リョー兄ちゃんの形見が、さらに大事なものになってしまった。小1のガキになんてものを託してくれるんだよ、リョー兄ちゃん。おかげで色々助かってるけど。
「じゃあ、これに魔法陣彫るのはダメですかね?」
「大丈夫だと思うよ。ギルド証はただの魔石で、魔石の持つ固有波長をキーにして、情報はギルドが所有している中央情報機で管理してるらしい。超古代文明時代の遺物を今もそのまま使っているものだから、今となってはその仕組みを把握している人間はひとりもいないんだけどね」
なお、現在のギルド証は首から提げているドッグタグに埋められた小さな魔石が担っているそうだ。まだ登録したばかりの見習いである俺にはまだない。
「ちなみに、何を彫るの?」
「魔素充填機に使われてる魔法陣ですね。体内魔素が無くて動かない魔道具を動かす用に使おうと思ってて、出先で魔石が空っぽになっても困るので、自分で補充してもらおうかと」
「……魔石に彫ったら失敗した、って聞いたけど?」
「充填機の魔法陣そのまま写したらそりゃうまくいかないでしょ。相手に送るんじゃなくて自分に取り込むんですから」
必要に応じて魔法陣を書き換えるのに決まってる。もちろん、形見にいきなり新しい魔法陣を彫る勇気はないので、別の魔石でテストしてからだ。風呂の給湯器から使い古しの魔石は回収してきたので、これでテストしようと思う。うまく行けば、一番魔素を食う風呂のランニングコスト削減だ。
朝早くに図書館で写してきた魔素充填機の魔法陣を一部書き換えて、テスト開始。
魔法陣が完成した直後から、くすんだ色になっていた魔石はグングンと魔素を吸って色鮮やかに変わっていった。鉱物がひとりでに色を変えていくのは、見ていて不思議だな。
で、これが魔石として使えれば完成だ。問題は、吸い取る方向の魔法陣を刻まれた魔石が魔素を吐き出すことができるのか。
幸い魔石を使う工具は室内に大量に転がっているので、テスト環境には困らない。
魔石を大量に消費するらしい工具を教えてもらって空稼働させてみる。問題なく動いているように俺には見えるが、レイン教授から見ても問題ないようで、感嘆の声が上がった。
では、本番。
ブレスレットの中央に光る大きめの魔石に、先ほどの魔法陣を彫ってもらう。
俺の手元に来たその日から、ガキの頃はアンクレットとして、成長してからはブレスレットとして、学校外で常に俺を飾ってくれていたアクセサリーは、魔法陣というアクセントを得てバージョンアップした。
この学院にはアクセサリー禁止の校則はないそうだし、これからは常に一緒にいられそうだ。
なお、この魔法陣を昨日作った翻訳の魔道具と同じように特許登録してくれ、とレイン教授に懇願されましたとさ。面倒な手続きを引き受けてくれるなら、お任せします。




