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37.新しい魔道具できました

 翌日放課後。

 ひょこっと教室に現れたレイン教授は、おいでおいでと言うようにニコニコの表情で手招きした。人を呼ぶジェスチャーも変わらないんだなぁ、なんて見当違いな感想を抱いてしまうほど、何とも彼の人柄に似合った行動ではある。

 平日の放課後は学生らしく部活などでそれぞれ忙しくしている友人たちと別れて寄っていくと、俺より俺の背後を見て何か感じたようで、レイン教授はうんうんと何度も頷いていた。


「彼らが昨日言っていたこっちでできた友人だね。良い仲間を捕まえたもんだ」


 リョー兄ちゃんの研究所に同行するメンバーはこっちの約束が先だと昨日のうちに話してあったから、実際に顔を見に来たというところだろうか。

 同行メンバーを説明するのに、ギルドに登録されているなら当然あるはずのパーティー名がわからないことが今更ながらに笑われたわけだが。


「今活動中の成人前パーティーでは注目度の高いパーティーだよ。パーティー名は『隠し爪(シークレットクロウ)』。冒険者としては一番人口の多いアタッカーがいないパーティーとしても、動向が注目されていたチームだね。そうか、君が待望のアタッカーか。目立つねぇ」


 Cランク推薦してもっと目立たせてあげるよ、なんて意地悪な顔をしてニシシと笑われた。Cランクに上がるには実績を積むのが原則だが、2ランク以上上の冒険者と組む事情がある場合に限って、上位ランク者がAランクもしくはSランクであればCランクまでは無条件で認められる制度がギルドにはあるそうだ。国外に出るためにランク上げする必要がある旨を話したら、だったら推薦するよ、といとも簡単に宣われたわけだ。もう、好きにしてください。どうせ目立つ素地は自前で持ってるから、これ以上要因が増えてもどうでも良い。


 話しながら案内された行き先は、大学院の所有する実験室だった。

 レイン教授の手元に用意済みだった鍵でドアを開け、無人の実験室に足を踏み入れる。魔道具製作室、とドアにプレートが貼ってある通り、大小様々な機械工具らしいものが置かれた部屋だ。


「鉱物用の魔法陣転写機はこっちだよ。魔石と魔法陣は持ってきた?」


 質問を投げかけながら、作業台の椅子を引いてくれて自分も隣に座るから、俺もそこに腰掛けた。

 今日の予定は昨日のうちに約束してあったので、必要なものは全て持ってきている。魔法陣の下書きに、買った魔石は手持ち全部。それと、見本の暗幕魔道具。


「なるほど、こうしたいのか。なら、魔石の加工が先だな。結合は紐縛り前提の簡単な構造で作ろうか。これをそのまま商品化するわけではないんだろう?」


「はい。これで望む効果が出るなら、魔法陣だけ提供して本職に作ってもらおうと思ってます」


「うん、なら一番単純な作り方でいこう」


 説明されたのは、一方に出っ張りを、一方に引っ込みを作り、引っ込み側に幅を持たせて、捻れてちょうど良いところでストッパーで止まる、という超単純構造だった。工具はこの部屋に揃っているので、作業はサクサク進む。

 まずは魔石を2つ用意する。片方は出っ張りを残して出っ張りと直角になるように平らに成形。もう片方は平面を作ってから引っ込みの形に彫り込む。出っ張りの方は少し気を使ったが、硬いはずの魔石を豆腐のようにサクサク切ってくれる工具のおかげでスムーズだ。

 次に、できた2つを合体させて仮留め材でくっつけて、まとめてひとつの楕円球になるように形を整える。最後にストッパー部分の真逆側を平らに均して完成だ。


 では、次に本題の魔法陣の彫り込みに移ろう。型紙を指定部分にセットし、魔石を内部に固定し、覗き窓から目安円を彫りたい場所に合わせて位置合わせして、スイッチオン。

 ジーガーと音を立てて工具が働いている間に、魔石くずを集めて片付ける。で、片付けが終わった頃に作業音も止まった。もうできたらしい。早っ。

 なお、括り紐はレイン教授が手慣れた手付きで括ってくれた。魔道具作成の授業ならここまでさせるが、それはちゃんと学ぶ時に習ってくれ、だそうだ。紐縛りはそこそこ難しいんだな、と理解した。


 さて、出来上がったわけだが。


「レイン教授、実験台になります?」


「おう! 実は期待してた!」


 でしょうね。


 早速いそいそと自分の首にかけて、そのつもりで用意していたらしい古代文字で書かれた書物を開いた。


「うん、普通に読めないよな。で、これを捻ると……」


 途端、黙り込んだ。顔を覗きこむと目が一定の幅でいったりきたりしているので、読めているのだろうか。

 ちなみにその本は、当時流行りの作家が執筆したのだろう冒険活劇の3巻、と表紙から見て取れた。活字ではなく手書きなので、コピー機はあっても活字印刷機はなかったのだろうと想像できた。


 しばらくして、レイン教授はポツリと呟いた。


「リツくん。商品化してくれ。頼む」


「はい。そのつもりです」


 俺自身の拘束予防策だからね。もちろんだ。


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