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カミガミ!!  作者: 夜明 間近
第1章 世界三大海港ラ・モール ~シキ編~
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トラブル介入

 ぶん投げられた魔剣は、業火に包まれながら縦に回転を重ねていき、やがて爆熱する旋刃となって男へと迫りゆく。

 さきほどの炎の斬撃とは、威力のケタがまるで違う。先の斬撃が鋼鉄をも切断する一撃ならば、今度のこれは鋼鉄をも消滅させる一撃。

 『斬る』のではなく『滅ぼす』事を目的とした攻撃だった。

 しかし、


「カッ! 真っ向過ぎだアホが」


 己目掛けて真っ直ぐに向かってくるそれに対し、男は軽く真横へと跳んだ。

 回転する魔剣は、さっきまで男の居た場所を虚しく通過し、彼方へと飛び去っていく。


「だから言ってんだろうが。テメェ火炎芸は見飽きて――」

「のろま! どこ見てんのよ!」


 少女の声が聞こえたのは、今まさに男が跳んだ方向からだ。見れば着地の瞬間を狙い、両拳に炎を纏わせた少女が待ち構えている。

 一息で十メートルもの間合いを詰め切るずば抜けた瞬発力。わざわざド派手に燃え盛る剣をぶん投げたのも、男の意識を剣の方に集中させる為だったか。


「うらぁっ! そぉのスカした顔面吹っ飛ばしてやるぅぅぅっ!」

「――――チッ!」


 拳が炎に包まれているおかげで軌道こそ見えやすいものの、その欠点を補って余りある速さで突き出される拳打。それも、一発二発では終わらない。

 十発――二十発――三十四十五十――!

 唯一鎧に護られていない顔面めがけて容赦なく繰り出される拳を、首を傾けあるいは体を屈め時には逸らし、男は実に器用に捌いていく。


「へぇ……あっちもやるじゃん」


 その攻防を眺めていたシキは、今度は男の動きに感心していた。

 いかにもパワー重視なごっつい見た目に反し、身のこなしは実に軽い。少なくとも、重装備に頼りきった者の動きではなかった。

 あれほどの接近戦になると使えない漆黒の大剣も、一歩距離が離れれば即座に振るえるよう、常に意識しているのも分かる。

 おそらく魔法で身体強化をしているだろう、少女の圧倒的な速度と鋭さ。加え、手数でねじ伏せようとする激しさに対し、男は防戦一方になりながらも目の奥から冷静さは消えていない。

 ともすれば挑発的な言動を繰り返すのも、作戦の内なのか。


「たゆまぬ努力の賜物……ってか?」


 ここまで見た感想としては、妖精みたいな見た目に反し、場の流れも気にせず過激かつ奔放な動きを展開する少女は天才型。

 そして猛々しい外見とは裏腹に、守備を中心として相手の動きを観察しつつ堅実に戦う、秀才型の男。といった印象だった。

 すなわちこれは、天才対秀才という構図なのだ。道場にいた頃、よく見た戦い。

 そこまで思い、シキは少しだけ目を細める。

 このテの戦いの結末は大抵、決まっているものだ。


「でもなー。どうにも一個、気になるんだよなぁ……」


 ここに来てから――いや。正確にはあの二人を見てからずっと、違和感が消えない。原因はおそらく、さっき感じたあの気配。

 あれが自分の勘違いでないのであればもしや……。

 そうやってシキが考え込んでいる間にも、戦いは進んでいた。


「オラァッ!」


 連撃に慣れてきた男が、いよいよ反撃の拳を繰り出した。そのタイミングは、完璧の一言。

 少女が次の拳を突きだす為に踏み込んできた瞬間を見計らい、自らも前進して殴り掛かる。撃ち放つのが同時ならば、先に着弾するのは体格で遥かに勝る男の方だ。


「軽い上に単調なんだよテメェの拳はよォォォッッ!!」

「はっ! 甘いっつの!」


 突然の事だった。

 今にも拳を突きださんとしていたはずの少女の上体がクッと後ろへ沈み込む。その体勢から拳の代わりに繰り出されたのは――溜めに溜め込まれた左の上段蹴り。

 いかに体格差があるとはいえ突きと蹴りでは、蹴りの方が先に届く。


「ヌゥ――ッ!?」


 男が強引に前進を止めて仰け反り、かろうじて少女爪先を紙一重で避けた。

 ――その瞬間。


「掛かったわね」


 少女の右手に、彼方へ飛び去ったはずの魔剣が握り締められていた。旋回して戻ってきた瞬間を見逃さず、見事に受け止めたのだ。そして眼前には、攻撃を避ける為に大きく体勢を崩した男の姿。

 偶然で済ませるには、あまりにも鮮やか過ぎる流れ。つまり少女は、最初に剣を投げた時からここまでを予測していたということ。

 勝利を確信した少女が、笑って告げる。


「避けられるもんなら――避けてみなさい!」


 そのまま足を振り抜き、空転した勢いすらも乗せて、劫火の魔剣を男へと叩き付け――




「舐ッッッめんなマーシャアアアアアアアアア!!!」

「――ッ!?」




 その刹那。

 突如として男の体から黒い稲妻が放たれ、少女に直撃した。


「カハッ――」


 小柄な体は遥か後ろにまで吹き飛び、どこかの家の壁に叩き付けられ、力無く倒れ伏す。


「く…………っ、っ!」


 痛みに呻きつつ、少女はうつ伏せになって動かない。

 ――終わった。勝負ありだ。


「ハア、ハア…………カッ! ざまぁ見たかよォ」


 男もそれを察したのか、体の力を抜いた。

 そう、決着は着いた――はずだというのに。 


「まだ…………まだよ……!」


 戦意を失わなかったのは、ボロボロになった少女の方。

 ふらふらと、赤ん坊よりも危なっかしい足取りで、剣を支えにしながら立ち上がる。

 頭と口元からは血が滴っており息も絶え絶え。かろうじて意識は留めているものの、ダメージは甚大だ。誰がどう見ても、戦闘続行は不可能と断じるだろう。

 そんな、ちょっと手で押されただけで倒れそうな状態にも関わらずその体からは、弱々しいながら再び炎が吹き上がっていく。


「ヒュウ……ヒュウ…………あ、アンタにだけは絶対に……負ける訳にはいかないの、よ……っ!」

「……カッ! おいおい、そのザマでまだやる気かァ? イカレ女にゃ付き合ってらんねぇよ」


 男は驚いたというより、呆れているようだった。

 手を振って体の向きを変えようとした男に、少女は苦痛に歪んだ笑みを浮かべた。


「ハッ…………なぁに? 怖いの、かしら……? ハァ、ハァ……ッやっぱり所詮、成り上がり……ね……」

「――――――――チッ」


 少女の言葉は。

 男の逆鱗に、深々と突き刺さった。


「いいぜ、それだけ強がれりゃ上等だァ。覚悟できてんだろぉなァ?」


 再び少女に向き直った男が、禍々しい大剣を振りかざす。しかも、それだけではない。

 ――バチバチ、バチバチと。

 火花が散る音と共に、黒い稲妻が漆黒の大剣に絡みつくようにその刀身を覆っていく。

 無造作に放たれただけの稲妻を喰らっただけで、少女のこの有様なのだ。十全に魔力が練られた一撃をまともに受ければ、もはや死体すら残らないかもしれない。

 だというのに、それを目の当たりにしても、少女の笑みは消えなかった。


「……ハッ、覚悟ぉ? ……ボコボコにしたアンタを……ハア、ハア……どうやって病院へ引き摺っていこうかって覚悟…………かし、ら?」

「――上等だ。あばよマーシャ」


 あれほど挑発的だった色合いが完全に消えた、酷薄な口調で。

 男は黒霆の大剣を、振り落とした。

 そして――






「――――はーい、ちょっとごめんよー」




 

 

 天のいかずちにも等しい一撃は。

 突如として割り込んできた、あまりにも軽々しい声に受け止められた。





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