トラブル来たりて。
「おーこれが大陸の街かぁ。大和とはだいぶ毛並みが違うんだな」
街に入ったシキは、さっそく祖国である大和との違いを感じていた。
「はあー……石造の家がずらっと並ぶだけで、こんなに街の色が変わるもんなんだな」
大和の街並みといえば、イメージは茶色。対してこのラ・モールの街は白色なのだ。
大和が木造建築を主としているのに対し、この街は白く塗られた石壁が多いからだろう。
色合いは、街全体の印象を大きく左右する重要な要素だと思い知る。
「地面も硬ぇし、がっちり石! って感触だな。大和だと砂や土が結構混じってるから、石畳の上でももう少し柔らかいんだけど」
どちらが良い悪い、という話ではない。
ただ、少し歩くだけでもこれだけ違うという事実は良い刺激になる。
シキはますますこの先が楽しみになった。
「ま、急ぐ旅でもなし。とりあえず宿を取って、その辺ぶらぶらしてみっか」
目当ては武具店や格闘道場などだが、それくらい適当に歩いていても見つかるだろうし、この分ならそれ以外の店でも十分楽しめそうだ。
宿を探しながら歩いていると――
ドゴオオオオオォンッッッ!!!
遠くから、何かが爆発する様な轟音が聞こえてきた。
「んん?」
音の方を見ると、明らかに不自然な黒煙が立ち上っていた。
耳を澄ませば、かすかながら人々の悲鳴も聞こえてくる。何かよからぬ事が起こっているようだ。
「へぇ……この街にも、なかなか活きの良い奴らがいるみたいだな」
なんにせよ、活気があるのは良いことだと、シキは思った。
何故ならば大抵、その中心には面白いヤツがいる。
シキはニヤリと笑って、足の向きを変えた。
☆ ☆ ☆
「とうちゃーく!」
シキが辿り着いたのは、広大な噴水広場――だったであろう場所。
ここの名物であったのだろう巨大な噴水は無残にも吹き飛ばされ、分厚い煙りと濁った水をまき散らすだけの不気味なオブジェになり果てている。どうやら煙を上げていたのは、これのようだ。
おかげで――と言ってはなんだが、爆音を聞いた場所からこの広場までそれなりに距離があったが現場を見つけるのは楽だった。
黒煙はずっと立ち上ったままで十分な目印になったし、なにより近付くにつれ、こちらに向かって逃げてくる人の数が増えていったからだ。
その人達と擦れ違う際、いくつか話し声も聞こえてきた。
「はあ、はあ……またあいつらだ! A級冒険者『紅蓮姫』マーシャと同じくA級冒険者『黒閃』のグラン!」
「ちくしょー! 今日も派手にやり合いやがって! 二ヶ月前にも北地区の一角を吹き飛ばしたばっかじゃねぇか!?」
「警備隊は何やってんのよ!?」
「今は付近の住民を避難させるのに手一杯だとよ! クソッタレ! 体の良い理由付けて、自分たちがあいつらの戦いに巻き込まれたくないだけだろうが!」
……などなど。
断片的な情報だったが、おかげなんとなく、眼前の状況は理解できた。
――お互い剣呑な雰囲気を纏い、抜き身の剣を手にして広場の中央で向い合っている二人の男女。
「あいつらがなんとかって二つ名で呼ばれてる、警備隊も手を焼くA級冒険者って奴らか」
中央で敵意を剥き出しに睨み合っている、男女へと視線を向ける。
警備隊とやらが避難させたのか、付近に他の人影はない。見る事に集中できるので、それについては素直にありがたかった。
あの二人、どう見ても友好的な雰囲気じゃない。二人で協力して暴れているのではなく、むしろぶつかり合っているようだ。噴水をぶっ壊したのも、どちらかの手によるものだろう。
さらにシキの視線は、二人の身に付けている物へと向き――
「へえ」
ちょっと驚いた。思わず瞠目した。
――方や、背中まで伸ばされた赤い髪といかにも勝ち気そうに吊り上がった赤い目が特徴的な、胸当てなどの防具は一切身につけない、冒険者にしては軽装の少女。
その体躯は小柄にして細身。こうして武器を持ち、闘志を剥き出しにしている姿でも見なければ、とても冒険者などと荒事を生業にしている風には見えない、シキとそう年齢も変わらないであろう美少女だった。
しかし、手にしている剣は遠目からでも分かるほどの極上の一品。やや細身ながらも刀身からは呼吸をしているかのように炎が迸り、溢れんばかりの魔力が凝縮されているのが分かる。まず間違いなく、魔剣の一種。
それも、そこらの店で手に入るソレではなく。魔境や秘境と呼ばれる人外の領域に足を踏み入れねば目に入る事すら叶わない、天上級の一振り。
ただ手にしているだけで持ち主の実力が推し量れよう、破格の代物だった。
――対するは、対照的なまでの漆黒に身を包んだ大男。
年の頃は二十の後半ごろ。短く揃えられた黒髪に、ぎらつくほどの野性的な顔立ちに輝く黒き瞳。二メートルを超えるであろうその巨躯を、遊び心一つ見受けられない真っ黒な全身鎧で覆っている。
しかもただの鎧ではない。少女の魔剣ほどではないが、アレにもかなり強力な魔力が付与されているのが分かる。半端な攻撃では、キズ一つ付ける事ができないだろう。
そんな彼が手にしている武器は、漆黒の大剣。その全長は彼自身の身長すら優に超え、三メートルにも達している。正確な重さは分からないが、軽くても百キロを下回る事はないはずだ。
それを男は至極平然と構えている。少なくともこと膂力に関して、疑う余地はなかった。
一見するだけで、二人ともかなりの実力なのが見て取れる。
だが、シキが驚いたのはそこではない。
「んー……この気配ってもしや……?」
シキがその意味に頭を巡らせている最中。
状況が、動いた。




