糾弾開始
「で? 手紙はもう終わりなの?」
「いや、あと少しだけ残ってるみたいだ」
本当に、あと数文だけ。
といってもまあ、別れの挨拶くらいのものだろうと、特に気も入れずに目を通せば、少し意味深な物言いがあった。
『そんじゃ最後に、一言だけ念押しして、終わりにしようかな』
「?」
念押しとは、何を?
その疑問は、すぐに解消された。
『汝が与えられし天命。決して忘れることなかれ』
「――――」
他の誰にも、意味不明であろう一文。
それがシキの脳天に、ガツンと横殴りの衝撃を与えていった。
さらには――
「うぇっ!? シキ! なんかその手紙、光ってるように見えるんだけど!?」
「ちょっと、大丈夫なんでしょうねそれ!?」
騒がれるように、シキの握る手紙が突如として発光し、徐々にその輝きを増していく。
あっという間に部屋中を満たしていく、仄暗く青白き光。
不穏な光景に背後で身構える二人に、シキは「だいじょーぶだいじょーぶ」と手を振った。
「これな。"消滅"の術式だから」
「消滅? って事はそれ……」
「ああ――消えるな」
シキが言った瞬間。
輝きは直視できないほどの最高頂に達し、次の瞬間にはその場から完全に消失していた。
……それからしばらくの間。誰も一言も喋らず、静寂が流れるばかり。
空気を破ったのは、マーシャだ。
「……今度こそ終わり……なのよね?」
まだ何かあるんじゃないのかと、やや警戒した面持ちでシキに尋ねる。それなりに長い冒険者生活の中でも、手紙一つでここまで振り回された事は、かつてない。
対してシキは「ああ」と簡潔に頷き返し――
「だあああっ! なんっかもう……疲れたあああああああっ!!」
もう限界っとばかりに、仰向けにぶっ倒れた。
彼にとり、帝とのやりとりは魔物との闘いよりも神経を消費する一大事。
それをこんな不意打ちと言ってもいい形でぶつけられるなど、突然背後から大鎌を振り上げた死神が迫ってきて、「お前の寿命を寄越せぇぇぇ!」とか言われるのと大差ない。
というか死神の方がマシ。遠慮なくぶん殴れるし。
そんなシキの傍にリナがちょこんとしゃがみ込み、声を掛ける。
「ありゃりゃ、シキったらだいじょぶ? お行儀が良くないわよ」
そのまま少年の頬を人差し指でブスブスブスブスと、つつくにつつく。わりと肉にめり込むくらい。
言うまでもなく。やられる方はとっても不愉快である!
「お前な……労わるつもりなら、もっと優しくせんかい!」
「ねぇシキ、ひとつだけ教えて! 手紙に書かれてた最後の一言。あれ、なんだったの?」
「あー……大したことじゃねぇよ。帝から大和国民に対する、ちょっとした確認。社交辞令みたいなもんだ。気にすんな」
「確認? なんのなんの!?」
「だから大したことじゃねぇって! あんま気にすんなよ!」
詰め寄ってくるリナを迷惑そうに押し退け、シキは心底気怠そうに身を起こす。ついで、ため息。
焦ったり驚いたり怒ったり感動したり――――この数分の間に、何か月分もの感情を吐き出した気分だ。
(なんかもう、腹いっぱいだなぁ。冒険者登録とかしようと思ってたけど……)
胡乱げな表情で、ヒルダに問う。
「もうオレに用はねぇだろ? 今日は帰っていいか?」
「ふふ――――ダメよ」
微笑んだまま即答での否定。他の三人とも、やや目を見開く。
それまでとは明らかに一線を画す、静かでいて、強い口調。
冷たく。どこまでも、冷たく。
まるで別人にでもなったような、纏う空気の変化。いや……まさに今"切り替わった"というべきなのか。
「むしろ本題はここからなんだから、貴方たちにはいてもらわなくちゃ困るわ」
「本題? それって……」
チラ、と。
隣にいる紅い少女を見上げた。
空気の変化を最も鋭敏に嗅ぎ取っているマーシャは、顔を強張らせ、口元を引き結んでいる。
そしてヒルダは威圧する様に脚を組み直して、言った。
「さて……そろそろ貴女のしでかした事について、弁明を聞かせてもらおうかしら。我が国が誇るA級冒険者――マーシャ・エルレイン?」
おふざけの時間は終わり。
これよりは、ラ・モール冒険者ギルド長ヒルダ・グレーメルによる。
楽しい楽しい――糾弾のお時間である。




