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カミガミ!!  作者: 夜明 間近
第1章 世界三大海港ラ・モール ~シキ編~
32/34

糾弾開始

「で? 手紙はもう終わりなの?」

「いや、あと少しだけ残ってるみたいだ」


 本当に、あと数文だけ。

 といってもまあ、別れの挨拶くらいのものだろうと、特に気も入れずに目を通せば、少し意味深な物言いがあった。


『そんじゃ最後に、一言だけ念押しして、終わりにしようかな』

「?」


 念押しとは、何を?

 その疑問は、すぐに解消された。




『汝が与えられし天命。決して忘れることなかれ』




「――――」


 他の誰にも、意味不明であろう一文。

 それがシキの脳天に、ガツンと横殴りの衝撃を与えていった。

 さらには――


「うぇっ!? シキ! なんかその手紙、光ってるように見えるんだけど!?」

「ちょっと、大丈夫なんでしょうねそれ!?」


 騒がれるように、シキの握る手紙が突如として発光し、徐々にその輝きを増していく。

 あっという間に部屋中を満たしていく、仄暗く青白き光。

 不穏な光景に背後で身構える二人に、シキは「だいじょーぶだいじょーぶ」と手を振った。


「これな。"消滅"の術式だから」

「消滅? って事はそれ……」

「ああ――消えるな」


 シキが言った瞬間。

 輝きは直視できないほどの最高頂に達し、次の瞬間にはその場から完全に消失していた。

 ……それからしばらくの間。誰も一言も喋らず、静寂が流れるばかり。

 空気を破ったのは、マーシャだ。


「……今度こそ終わり……なのよね?」


 まだ何かあるんじゃないのかと、やや警戒した面持ちでシキに尋ねる。それなりに長い冒険者生活の中でも、手紙一つでここまで振り回された事は、かつてない。

 対してシキは「ああ」と簡潔に頷き返し――




「だあああっ! なんっかもう……疲れたあああああああっ!!」




 もう限界っとばかりに、仰向けにぶっ倒れた。

 彼にとり、帝とのやりとりは魔物との闘いよりも神経を消費する一大事。

 それをこんな不意打ちと言ってもいい形でぶつけられるなど、突然背後から大鎌を振り上げた死神が迫ってきて、「お前の寿命を寄越せぇぇぇ!」とか言われるのと大差ない。

 というか死神の方がマシ。遠慮なくぶん殴れるし。

 そんなシキの傍にリナがちょこんとしゃがみ込み、声を掛ける。


「ありゃりゃ、シキったらだいじょぶ? お行儀が良くないわよ」


 そのまま少年の頬を人差し指でブスブスブスブスと、つつくにつつく。わりと肉にめり込むくらい。

 言うまでもなく。やられる方はとっても不愉快である!


「お前な……労わるつもりなら、もっと優しくせんかい!」

「ねぇシキ、ひとつだけ教えて! 手紙に書かれてた最後の一言。あれ、なんだったの?」

「あー……大したことじゃねぇよ。帝から大和国民に対する、ちょっとした確認。社交辞令みたいなもんだ。気にすんな」

「確認? なんのなんの!?」

「だから大したことじゃねぇって! あんま気にすんなよ!」


 詰め寄ってくるリナを迷惑そうに押し退け、シキは心底気怠そうに身を起こす。ついで、ため息。

 焦ったり驚いたり怒ったり感動したり――――この数分の間に、何か月分もの感情を吐き出した気分だ。


(なんかもう、腹いっぱいだなぁ。冒険者登録とかしようと思ってたけど……)


 胡乱げな表情で、ヒルダに問う。


「もうオレに用はねぇだろ? 今日は帰っていいか?」

「ふふ――――ダメよ」


 微笑んだまま即答での否定。他の三人とも、やや目を見開く。

 それまでとは明らかに一線を画す、静かでいて、強い口調。

 冷たく。どこまでも、冷たく。

 まるで別人にでもなったような、纏う空気の変化。いや……まさに今"切り替わった"というべきなのか。


「むしろ本題はここからなんだから、貴方たちにはいてもらわなくちゃ困るわ」

「本題? それって……」


 チラ、と。

 隣にいる紅い少女を見上げた。

 空気の変化を最も鋭敏に嗅ぎ取っているマーシャは、顔を強張らせ、口元を引き結んでいる。

 そしてヒルダは威圧する様に脚を組み直して、言った。


「さて……そろそろ貴女のしでかした事について、弁明を聞かせてもらおうかしら。我が国が誇るA級冒険者――マーシャ・エルレイン?」


 おふざけの時間は終わり。

 これよりは、ラ・モール冒険者ギルド長ヒルダ・グレーメルによる。




 楽しい楽しい――糾弾のお時間である。




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