そして夜が明けた
そして夜が明けた。
とか言うとなんかすごいことがあったような感じだけど、実際には砦が隅々まで綺麗になっただけで生活は変わらなかった。まあ、そうだよなあ。前世でも生活に支障がない程度のカビやGがいたわけだし。見たくもないけど。
あのあと、腰が抜けて歩けない私はピクセルさんちの兄弟たちに代わりばんこに担がれて砦に戻った。
途中で領主様が私を強奪して階段を駆け上り、タッちゃんに追い付かれてボン神官長に「パス!」と投げられたり、そしたら神官長がうっかり受け損なって崖から落ちそうになったのは、まあ、後で〆る。
(と思っていたのにしゅーんとしたボン神官長に「ごめんね」って言われたら満面の笑顔で許してしまった自分はチョロいと思った)
ちなみにまだ客間を借りている。希望していた西棟の部屋はまだ準備ができてないそうだ。要望出してから二週間くらいじゃそんなもんか。体感的にはもっと経ってる気がするけど、細かいことは気にしてはいけない。年を取ると体感時間なんて伸びたり縮んだりするよね(なぜ言い訳した)。
ま、そんなことがあって、目覚めた時にはお昼を回っていた。
「いかん、寝すぎたー」
ぼけっとしたまま体を起こすと、計ったようにラビファたちがやってきて、テキパキと身支度を整えてくれる。着替えは自分でやるといつも言ってるので服には手をかけられないけど、顔を蒸しタオルで拭いてくれたり、長くなってる髪を梳いてくれたり、薄く味がついた美味しい水をくれたりと、大変甲斐甲斐しい。うーん、こういう子を嫁に欲しいわ。一人でいいからくれないかな。
何てことを言ったら三人そろって複雑な顔をして首を横に振った。即答ですか、ヒドイ。
着替えを済ませて西棟の食堂に四人で向かう。
途中、へたばった私をウサミがおんぶしてくれた。野ウサギタイプのウサミは三人の中では一番背が高いので安心感がある。いや、だって、フィーの運び方は、ねえ。ちょっとトラウマになったよ。
「メイ様のおかげで仕事が減って感謝してますわ」
メイド三人娘ではお姉さん格のウサミの歩みはとっても速い。ぴょんひょんと飛ぶような足取りなので一見酔いそうだけど絶妙に勢いを殺してくれてるのか安定感抜群だ。他の二人と違ってダメなことはダメときっちり指摘してくれるウサミの言葉に、私は嬉しくてニヤついてしまった。
「そりゃよかった。具体的にはどんなって聞いていい?」
「もちろんです」
ウサミはそれは嬉しそうに風呂場や台所だけではなくあまり使わない客間の隅などの黒ずみが消えたことや、トイレの黄ばみまでなくなったこと、神殿の泉に輝きが戻ったことを教えてくれた。トイレと神殿の泉って、同列にしていいのか? とか聞いてはいけない、きっとそう。
「領主様からメイ様の魔法石のおかげで砦が生き返ったと聞きました。私たちの体もすごく調子がいいんですよ。おかげでみんなパワフルに働いているので仕事が減ったんです。とっても感謝してます」
それって単に砦の皆さんの動きがよくなったから仕事が早く片付いているだけなんじゃ、と思ったけど喜んでもらえているならいいか。
そんな話をしつつ、食堂に着いたらその場にいた皆さんにとっても感謝された。
ウサミたちが私を置いて食事の準備をしている間、たくさんの人がやってきて声を掛けてくれる。体の節々がいたくなくなったと話す庭師さんややけどの跡が消えたという厨房員さん。料理人の皆さんからは畑の木々が元気になったと、せっかく整えてもらった髪がぐちゃぐちゃになるほどめちゃめちゃ褒められた。
「いやー、これで萎れた食材を泣きながら捨てる羽目にならずに済む」
「おおっ! 私、すごいいいことしたなあ!」
「まったくだ! これからしばらくは聖女様スペシャルメニューをたくさん作ってやるぞ!」
「やったああ!」
どんなものが出るのかはわからないが嬉しい。
などと思っていたらそれはすぐに目の前に現れた。昼食時間はとっくに過ぎていたんだけど、私がいつ来てもいいように準備していてくれたんだとか。ありがたや。
しかし……。
「ベアモンさん、これはいったい……」
大きな皿にデデンと乗っているのは私の頭くらいある大きな丸い塊。しかもやけに茶色い。
「ふふふ。ベアモン特製満足焼きだ。食ってみ?」
「……、食べきれないよう」
「大丈夫、ナイフを刺してみ?」
言われた通りにナイフで刺すと、ブスっと音がして穴が開く。
「あ、中は空洞なんだ?」
「ふふふ。魔力が満ちた直後のジャガイモでしか作れない俺のオリジナルメニューだ。サクサクしてうまいぞ」
「ほんとだ。ポテトチップスみたい! うまー!!」
濃い目の塩味とコショウが絶妙でとてもおいしい!
ベアモンが得意げに話したところによると、魔力が満ちた直後は普段とは違う珍しい作物が取れることがあるらしく、そういうモノは焼くと膨れるんだそうだ。どういうからくりかはわからないけど、それを食べると体がすっきりするのだとか。
「確かに体が軽くなった感じがする。ベアモン、すごい! 惚れちゃう!」
「ふっはっは、もっと褒めていいんだぜ!」
ベアモンは胸を反らして嬉しそうに笑った。周りの料理人たちも何となく嬉しそうに頷いていて微笑ましい。
「まあ、メイの料理もうまいからな。また新しいのを教えてくれ」
「もちろん! 近いうちに西棟に部屋を借りる予定だから隙間時間になんか作らせて」
「おおっ、いいな! 材料なら任せてくれ」
「やたっ! ありがとうー!」
材料が手に入るのは素直に嬉しい。ベアモンがご飯作ってくれるからお菓子がいいかなあ。ケーキは泡立てるのが大変だから人でも借りられたらなおいい。
ニヤニヤしていたら、目の前にオレンジ色のマグカップが置かれた。以前来たときにも飲んだほんのりオレンジの香りがする紅茶が入ってる。
「ジャガイモだけじゃバランス悪いですよ。サンドイッチをいただきました。メイ様もどうぞ」
にこりと笑うウサミさんの圧が怖い。
コクコク頷いてサンドイッチを齧っていたら、周りの皆さんに笑われた。ベアモンはちょっと不満そうだったけど、サンドイッチもここで作ったものだったから文句はないみたいだ。
「そういえば、明後日肉が来るって聞いたなの」
はむはむとかわいらしくサンドイッチを食べながらラビファが言う。
肉が来る? 業者さんが来るのかな? 辺境だから商隊か何か来るのかもしれない。
「ああ、それで明後日は料理人総出で狩りに行くからな。2週間後に肉祭りをするとさっき領主様に言ってきたとこだ」
え? 狩り?
ってことは肉になる動物が近々来るのか。肉祭りって言うんだからきっとたくさん肉が手に入るほどの群れなんだろう。2週間も間を開けるんだから下ごしらえとか加工とかするのかも?
うーん、想像がつかない。テレビで見たヌーの群れみたいなやつなのかなあ?
「肉がたくさん手に入るぞ。メイにも初めての料理を食わせてやれるな」
嬉しそうに言うベアモンを見ていたら私も何か作りたくなった。肉料理で異世界で鉄板といったら唐揚げかトンカツかハンバーグか照り焼きか? すでに以前の聖女様たちが作ってるような気もするけど、それはそれでよし。
「私もなんか作っていい?」
「いいぞ。楽しみにしてる。うまかったらここで採用してやるぞ」
それは嬉しい。
その後しばらく、ベアモンが夕食の仕込みに呼ばれるまで、私たちは楽しく肉料理の話をしたのだった。
読んでいただいてありがとうございます。
切りがよかったので短いのですがアップしました。
前回更新からずいぶん間が開いてしまいました。またぼちぼち書いていく予定なので楽しんでいただけますと嬉しいです。




