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……、確かに綺麗だけどさ

注意!

虫に対する表現があります。トラウマを刺激するかもしれません。特に黒くてカサカサする『ヤツ』が苦手な方は自己責任でお願いします。

あらすじをあとがきに載せておきますので、回避した方はそちらをご覧くださいませ。

 トラウマは誰にだってある。そう私は信じている。

 私にはトラウマがいくつかあるが、その中でも最たるものは乙女(人類か? なんとかフォーマーズという漫画は一目見て悲鳴をあげた)の敵である『ヤツ』だろう。


『ヤツ』、そう、黒光りして、カサカサして、攻撃すると8割がた顔に向かって飛んでくる、アレだ。

 まだ両親が元気で、姉も結婚してなかったときは、『ヤツ』らの攻撃はすべて家族がしてくれていたので私はただ悲鳴をあげて逃げるだけでよかった。


 しかし、私は、見てしまったのだ。


 Gホイホイの中で孵化した『ヤツ』らが放射線状に……。

 ああああ、思い出すだけでも鳥肌が! 震えがああ!!


 でもまだその時は母が何とかしてくれたのでよかった。

 問題は、一人暮らしをするようになってから。


 最初に一人暮らしをしたアパートはラーメン屋の2階(そのために少し家賃が安かった)だったからか、毎晩のように『ヤツ』らは湧いて出た。

 最初は悲鳴をあげていた私も、毎晩になれば慣れる。水道管を上がってくるから網をしたり、コン○ットという心強い兵を1DKの部屋の四隅に配置してりして防ぎ、それでも出てきたのは殺○剤で撃退したりしていた。最終的には丸めた新聞紙で撃退できるようになったのだから、頑張ったと思う。


 だがしかし、私は、見てしまったのだ。


 隣の部屋の人が引っ越しでいなくなり、空いた部屋の中を。

 掃除中だったからと言って扉が開け放たれていたその部屋には。


 黒くカサカサした『ヤツ』が縦横無尽に走り回っていた。

 まるで『ヤツ』と同居していたかのよう、いや違う、『ヤツ』がそこに人を住まわせていたようだった。


 声も出せず、アパートを飛び出した私が見たものは、ラーメン屋の裏口にある扉から『ヤツ』が出てきて、扉の隣にあるふたが半分開いたごみバケツの中に入っていくところで……。


 直後、私が不動産屋に走ったのは言うまでもない。

 たまたま三連休の初日だったので、その日のうちにマンスリーマンションに引っ越しした。

 不動産屋の担当者はパニクる私を見て「やっぱりだめでしたか」と言って笑った。

 殺意が芽生えたので本社に苦情メールを入れると呟いたら、マンスリーマンションの家賃を2,000円負けてくれた。


 それだけですめば笑い話で終わったんだろうなあ。いや、笑えないけどさ。


 落ち込んでいる私を励まそうと、姉が連れていってくれた映画もまた悪かった。

 某有名冒険映画で、私が好きそうな枯れたおじ様と息子のイケメントレジャーハンターが謎解きをしながらスリリングな冒険をするというとても楽しい話だったんだけど。

 途中のシーンで、女優さんが虫まみれになるところがあり、その虫が『ヤツ』にそっくりで……、

 それを見てブラックアウトした私を見た姉が寝落ちしたと思ったという、ね。

 あとですごく謝られたけれど、その時は一生許さんと思ったさ。まあ、直後にスペシャルデラックスエクストリームストロベリークレープをおごってくれたから不問にしたんだが。


 その後も『ヤツ』らとはいろんなことがありました。夜中にビニール袋の中でカサカサやってくれたり、風呂場で遭遇してのぼせたり、まあ、いろいろ(遠い目)。


 まあ、今、なんでそんなことを言っているかと言いますとね。


 目の前の光景が、映画で見たそれにそっくりなんですよ……。






 領主様に抱っこされ、進むことしばし。

 暗くてよく見えなかったけれど相当険しい道だったと思う。途中からずっと領主様の首にしがみついて目を閉じていたのでわからないが、ずっと速度の緩いジェットコースターに乗ってる気分だった。

 時々領主様が嬉しげな声をあげて跳ねていたが、あれはいったい……。

 いや、聞くまい。フリーフォール状態だったけど、うん、なかったことにしよう。


 まあそんな感じだったので、地に足がついたときは膝が笑ってた。何とか立てたからいいけどさ。


 落ち着くために深呼吸を繰り返したのち、周りを見る。

 まんまるい月が思ったより明るいので夜でも周りに何があるのか程度はわかった。


「あれが水門だよ」


 ものすごい上機嫌な領主様がそっと降ろしてくれた場所は、断崖に作られた大きな扉の前だった。見た目はまんまトンネルに扉がついてる状態だけど、高さはマー君+私の身長くらいかな。

 扉のすぐ下は水路で、城の中にある水源から出た水が流れているのだという。結構な量の水がすごい勢いで流れていて、砦の正門の横を流れる川に流れ込むのだとか。

 ちなみに水源は神殿にある神の泉なんだって。神様すげぇ。


「水路の上部分を扉でふさいでるんだね」

「扉は侵入者や魔獣避け。あとはまあ、神殿の見栄か?」

「失礼ですよ、アーク様」


 話をしているうちに、ボン神官長が追い付いた。息切れ一つしてない、すごい。


「灯りを」


 ボン神官長の声と共に、ふわりと周りが明るくなった。おお、魔法だ! と感動していて笑われる。

 ボン神官長が持つ杖の上には前世で私が最後を迎えた公園の外灯くらいの明るさの玉が浮いていた。杖間動きに合わせて光の玉がゆっくりと上がっていき、周りを照らしてくれる。おかげで扉を囲んでいる彫刻がとてもよく見えた。

 扉の周りの彫刻は前にいた世界の神殿みたいな形でなんというか神々しい。神殿から湧く水が流れる川なので神殿みたいなものを作ったのかな? 領主様が見栄って言ったのがちょっとわかる。


「明るい時にゆっくり見に来たいなあ」


 そう言うと、ボン神官長はじゃあ二人きりでと微笑んだ。ほわっとした優しい笑顔にぜひ!と言おうとしたら後ろから重たいものにのしかかられる。


「そのときは私が案内するのでボン神官長は結構です」


 カッちゃんだった。無事に追いついたようで何より。

 続けてごつごつしかけのしっかりとした手が私の右手を握った。この手はきっとマー君だな。ちょっとぜーぜー言ってるのに親近感を感じる。


「それじゃ、扉を開けるぞ」


 離れたところでタッちゃんの声がした。小さな明かりの玉がタッちゃんの周りを飛んでいる。きっとあの辺りに扉を開ける仕掛けがあるんだろう。


 ギギっと軋んだ音を立てて扉が開くと、水路の右側に通路があるのを見つけた。歩いて中に入れるようになっているようだ。なるほど、だから防犯のために扉があるんだな。

 扉の奥は真っ暗で何も見えない。でも奥から絶えず水が流れているのはわかる。


「中に入るとすぐに城の防御結界に当たる。たぶんもうそこまで地異は来ているはずだ。その近くに一時的に結界を解除する装置があってな。それを解除して地異を解放しつつ、地祝に変わるのを見届けるのが領主の仕事なんだよ」


 息子たちにまとわりつかれた私に領主様が説明してくれた。


「近くに行っても平気なの?」

「ああ。地異は城の穢れでもあるのであまり近づきたくはないだろうが、人に寄ってくることはないのでこちらが手を出さなければ害はない。私は今から結界を解きに行くが、メイも来るか?」


 ここでカッちゃんたちと待っててもいい、と領主様は言ってくれたが、せっかくここまで来たカッちゃんとマー君が私のせいで残されるのは申し訳ない。


「行きます!」


 食い気味に返すと、領主様は私の頭を撫でてくれた。なんというか、甘やかされてるなあ、わたし。

 頼りになるナイトたちもいることだし、安心して二度と見られないかもしれないイベントを堪能しよう。





 なーんて、思っていた時もありましたよ……(テンプレ)。

 あの光景を見るまでは。






 防御結界は透明な板みたいなものだった。分かりやすく言うと動物園で動物と人間を隔てている強化ガラスみたいなもんか。


 それにびっしりと黒いモノが貼り付いている。


 ボン神官長が持つ灯りで見ると、本当にカビみたいだった。一見丸くてフワフワしてて『まっくらくらのすけ』に見えなくもない。単体だったら可愛いと言えなくもないけど、ここまでたくさんいると出てきた瞬間すすで真っ黒にされそうだ。


「結界を解くからメイたちは少し下がっていなさい」


 領主様がこちらを見て手を振る。領主様の隣にはボン神官長がいて、何やら呟きつつ杖を掲げていた。


「神官の祝いの言葉が地異を地祝に変えるんだ」


 マー君が耳元で囁く。なるほど、だからボン神官長が一緒に来てたのか。

 神官長の杖によって作られた光の玉が小さく分裂して水路を照らしていく。速い流れの水面に光が弾けてとっても綺麗。まるで蛍みたいだ。


「それじゃあ、いくぞ」


 領主様の合図でマー君が私の前に立ち、カッちゃんが背後に回る。タッちゃんは次期領主なので領主様の隣に立っていた。


 ぽち。


 そんな感じの軽い音と同時に、ゆるゆると結界が割れる。

 その隙間から、出てきた黒いものは。

 真っ黒いフワフワなんかではなく。

 ギラギラとした光沢と楕円形のフォルムをした。


『ヤツ』らだった。




「ぎゃーーー!! 怖い怖い怖い怖い怖い!!!」

「大丈夫だ、メイ、落ち着け! 暴れるな!」

「無理無理無理無理無理無理!!!」


 正面にいるマー君の背中に必死でしがみつきながら、私はパニックに陥っていた。

 だって、だって、ヤツが、ヤツらがああああ!!!

 カサカサカサと音を立てて近づいてくる黒い影。奴らはすぐ足元まで迫りつつある。


 脳裏に浮かぶのは前世での『ヤツ』らの記憶。

 Gと称されることが多い、カサカサと動く昆虫はまさに私のトラウマだった。それがまあ溢れんばかりにやってきて、足元を走り、顔の前を飛んでいく。マー君やカッちゃんもいるのに、なんで私の顔に向かって飛んでくるんだよおおお!!

 こっちに向かってくるたくさんの『ヤツ』らは映画で見たあのシーンを思い出させる。確かあの時、ヒロインは全身が真っ黒に見えるくらい蟲にたかられて……。


「うわあああん、もういやだあああ!!!」


 ぎゅうっと目を閉じてガタガタ震えながら、私は声の限り悲鳴を上げた。

 怖い怖いと叫びながら身を丸める。

 そうしていると、よしよし、と背中からぎゅっと抱き込まれ、横抱きにされて頭を引き寄せられた。


「大丈夫、私たちがいますよ。ほら、少しずつ地異が地祝になってく。綺麗ですよ、見てくださいな、メイたん」

「やだあ、ううう、おうちに帰る、帰るうぅぅ……」

「ふふ、こんなにかわいくなっちゃうんですねえ」


 抱き上げられて足元を走るアレを感じなくなり、顔を服に押し付けられたことでこちらに向かって飛んでくる『ヤツ』ら見なくてすんだ。それでも米びつの米みたいにぎゅっと押し込められていた『ヤツ』らは流れる水より速く飛び出していく。


「はい、息を吸って、吐いて。私がしっかり守りますからね、大丈夫ですよ」

「カーク兄ばっかりずるい! 俺もメイを抱っこしたい」

「マー君は私とメイを守ってもらわないと。私よりマー君のが強いし、頼りになりますからね」

「……、カーク兄、こういう時だけ褒めるなんてずるい」


 仲良し兄弟がのんびり会話している。私がこんなに怖がってるのにヒドイ。


「カーク、マーク、そろそろ落ち着いてきたからメイと外に出ていいぞ。外のほうがメイも落ち着くだろ?」


 タッちゃんいいこと言った! あとで大好きな生ビールをたくさん出してあげるよ!!




 結界から外まではものすごく近かったのに、横を『ヤツ』らが飛んでいると思うとそれだけで長く感じた。

 カチンと固まって身を震わせる私を、カッちゃんとマー君はずっと励ましてくれた。なんというイケメン兄弟。ほんとにピクセルさんちの子はええ子たちやなあ。


「ほら、外に出ましたよ」


 カッちゃんは私の頭にチュッと音を立ててキスを落とすと、ゆっくりと膝を曲げて腿の上に私を座らせた。マー君が後ろに回って背中を支えてくれる。


「外に出ると、地異はすべて地祝になります。ほら、キラキラ光る小さな珠になっていてとても綺麗ですよ。さっきの黒いのはいませんから、安心して目を開けてください」

「……、ほんとに?」

「ええ。嘘ついたらハリセンボン飲みます」

「針千本だよ、ってよく知ってるね」

「聖女様の教えですから」


 前の聖女様、そんなことまで教えてたんだ。でもハリセンボンは違うぞ。

 でもおかげで気が緩んで体の力も抜けたので、二人を信じて目を開く。


「うわあ……」


 そこにはまるで天の川が降ってきたような光景が広がっていた。

 ぽかんと開けた口を閉じるのも忘れ、美しい風景に見とれる。こんなの初めて。


 水路から出てくるのは私のトラウマじゃなくて、まるで蛍のような淡い光。そう言えば地祝は宝足とも呼ばれてるんだっけ? ホタルか、なるほど。

 キラキラの光たちは周りの森や地に落ちてもしばらく光を保っている。水の流れに乗ってそのまま川に下るモノもいるみたいだ。株十と小金、だっけ。


 そのとき、ふと、気づいた。


 地異って、『G』のことか!!


 それに気づくと、思い当たる節がある。『ヤツ』がいない北の国ではコガネムシやカブトムシのメスを『G』と間違えたりするって聞くよなあ。ホタルもチャバネG(Gのちっさいヤツ)に見えなくもないし。

 ヒントはあちこちに落ちてたんだなあ……。

 聖女の9割が苦手にしてるってのも納得だ。残りの1割は虫や爬虫類(別種だけど餌にするらしいよ)を愛ずる姫だ、きっとそう。


 そんなことを思いつつ、光の乱舞を見つめる。

 すごく綺麗だし、幻想的だし、見てよかったなあとは思うけど……。


 好奇心が猫を殺すってなあ……。


 水路でアレを見てしまったから、複雑な気持ちだ。

 外に出てきた美しい地祝たちだけを見ていれば、こんな気持ちにはならず、失態を晒すこともなかった。そもそもここに来なくても、これだけの光なら砦の中からでもよく見えたろう。マー君と二人で屋上から水路方面を眺めるだけでもよかったんだ。


 でもま、いっか。


 だって、そうしていたら、マー君はここに来られなかった。領主様やタッちゃん、カッちゃんとぎくしゃくしたかもしれない。そんなの私は厭だ。

 この景色はとても美しいけれど、それより美しいものを私は知ってる。私のはおいて来ちゃったけどさ。


 なんてことを思ってみる。


「恥ずかしいとこ見せちゃったけど、来てよかったよ」


 ありがとね、と呟いたら、二人はとっても嬉しそうに笑ってくれた。

 黒歴史も含め、忘れられない思い出となった。






あらすじ

 領主様に抱っこされて水路に着いたよ。

 ボン神官長が明かりをつけてくれて、水路の中に入ったよ。

 地異って、Gじゃんか!!!

 大群が目の前で異動してもうトラウマが、トラウマがあああ!!

 結局、カッちゃんに抱っこされ、マー君に守られて水路から逃げました。

 外に出たら黒いGたちが地祝になってとっても綺麗。ホタルが乱舞してるみたいでした。

 結論、黒歴史が一つ増えた、マル。



読んでいただいてありがとうございます。

次回からは虫出てこないよ! 書いててしんどかったっ。

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[一言] まぁ…Gはね…うん。
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