メイちゃん向けハーレムルート来た!
領主様の部屋に着いたのはちょうど話が終わった時だった。タッちゃんの時間配分がすごすぎて思わず拍手したよ。
とはいえ、部屋の扉が私が使わせてもらっているのと違うので開け方がわからない。つるりとした一枚板に細かい装飾があり、真ん中に一本筋が入っている扉は木製じゃなくて磨かれた石みたいなのでできてるようだ。扉の枠にライオンみたいな顔の飾りがあって、そこに取っ手みたいなのが付いてる以外はなにもない。
とりあえずトントン、とノックしようとしたら、タッちゃんが扉の横の取っ手みたいなのをガンガン打ち付けた。どうやらあれはノッカーらしい。ノッカーなんて映画でしか見たことがないと感動していたら、扉自体がクワワンと振動して音を立てる。返事が来る前に真ん中がバカっと割れて自動ドアみたいに左右に開いたので驚いた。
「びっくりしたろ?」
いたずら成功みたいな顔するタッちゃん。
「この扉だけ王宮仕様なんだ。爺様が若い時に面白がってつけたって話だが、これが一番魔力を食うんでな。昨日までここは使わないで、隣の部屋から出入りしてたんだよ」
そのために隣の部屋の壁の一部を壊して扉をつけて続きの間にしたから大変だった、と笑っているタッちゃんだが、それって大変とかそう言う問題なのか?
「この扉を壊して普通のに付け替えたらよかったんじゃないの?」
「まあそうなんだけど、この扉は特製ですでに砦の魔法の術式に組み込まれてるから外すほうが大変なんだ。あとは登録した人しか使えないから望まない客を阻止できる利点がある」
「でも隣の部屋とつながってるんじゃ意味なくね?」
「そうとも言うな」
そう言って、タッちゃんはカラカラと笑った。なんというか、こういうざっくばらんなところいいなあ。
「おお、ターク、よかった。ちょうど使いをやろうと思っていたところだ」
そうしていると中から声がかかった。渋いおじ様声なのでたぶん領主様だ。
促されてタッちゃんと一緒に中に入ると、ここに来た最初の日に見たおじ様たちが数人と、黒さんと出会うきっかけを作ってくれたカチョさんたちがいた。嬉しそうな顔で手を振ってくれてちょっと和む。
おじ様たちの中に混じってマー君とカッちゃんもいたが、こちらは何やら深刻そうな顔をしていた。机に広げられているのは何かの図みたいだ。十字型が遠目でもわかるのでこの砦の見取り図かもしれない。部外者の私が見ていいものじゃないだろうな。
などと思っていたのに、領主様はめちゃくちゃ嬉しそうな顔をし、タッちゃんじゃなくて私を近くにと手招きした。早く早くと言いたげにものすごい速さで手をぶんぶん振ってる。最初に会ったときは渋めのおじ様だと思ったが、日に日に印象が変わっていく。
そういえば黒さんのところに行ったときも「お試しに行ってみよっか?」とか軽く言われたっけ。そのあとちょっともめたから距離を感じてたけど、魔法石渡したときは号泣してたし、私が来たときは頭で回って喜んでたって話も聞いたし、実は楽しいおじ様なのかもしれないなあ。
困惑して見上げたタッちゃんは苦笑していた。
「父上、急がないならメイの話を聞いてほしいんだが」
「ああ、急ぐぞ。でもメイが私と話をしたいとわざわざここまで来てくれてるならそっちのが大事だろう?」
いやいや、仕事を優先してくださいな……。
そう思っていたのに、カチョさんがやってきて、あれよあれよという間におじ様たちの輪に取り込まれ、気が付けば領主様の膝に乗せられていた。
すりすりされるとひげが痛いのですが……。
「父上! メイは私の膝にしか乗らないって言ってますからやめてください!」
そう言って、カッちゃんが私を取り上げる。え、その話継続中!?
「カーク兄! 独り占めすんな!」
カッちゃんが頬ずりしようとした隙に、今度はマー君に引っ張られ、くるりと一回転して抱え込まれる。
あー、とおじ様たちからため息が漏れた。
なんだ、物扱いか、乱暴だな!
「マー君、ハウス」
「ハウス?」
「離せってこと」
ちょっと違うけどまあいいか。
マー君が渋々離してくれたので、一番安全そうなタッちゃんのところに戻ったら全員からブーイングが来た。タッちゃんがげらげら笑い、私の頭をわしゃわしゃにする。なんでやねん。
「とりあえずメイの用件から済ませたほうが早そうだ。幸い、メイが挨拶したいって言ってたおっちゃんたちはここに揃ってる」
そうなのか? 見回してみると、緩んだ顔におじ様たちは領主様とどっこいな感じの年齢で、何となく重鎮っぽい。
「とりあえず俺が紹介していくな。父上は、もういいか。その隣の太ったおっちゃんは神官長のワ=サンボン。領地の神殿を統括してて、たいていはここの真ん中にある神殿にいる。そっちの顔がきついのが執事のセバ=スチャン。わからないことは何でも教えてくれるから頼るといい。そっちのいかついおっさんは俺の師匠で騎士団長のマサム=ネダテ。その横の神経質そうなおっさんはうちの領政管で主に事務仕事を統括してるシャアプ=ペン。カチョとイチフジたちはすでに知り合いだから割愛な」
ざっくりした紹介だけどわかりやすい。さすが次期領主。
おじ様たちはタッちゃんが紹介するとにこりと笑って会釈した。
領主様の横でにこにこしているぽっちゃりころんなおじさん、神官だからか温和そうな人だな。和三盆とはまた優しい甘みだこと。
執事はセバスチャンですか。テンプレなのか? なんだかすごく親近感が湧くわ。
騎士団長、なんというかどこから突っ込んでいいのか悩ましい。隻眼じゃなくてよかった。
領政管のシャアプさんは、なんだろう、よく文字がかける感じだ。きっと常にとんがってるに違いない。
それにしても、カチョさんたちと言い、イチフジおじさんたちと言い、微妙に名前に親近感が湧くんだけど、それも歴代の聖女の恩恵なのかな? うっかり笑っちゃいそうなセンスだから気を付けないと。誰だって名前で意味もなく笑われたら腹立つだろう。
「ターク、今のは一体?」
タッちゃんの紹介に満足していると、領主様は不思議そうに首を傾けた。まあそりゃそうか。突然息子に家臣を挙げられても意味わからないよな。
「いや、メイがおっさんたちに挨拶したいって言うから」
補足ありがとう、タッちゃん!
当初の予定では領主様にこちらの不手際を謝罪し、これからお世話になるだろう家臣の方々を紹介してもらってきちんとご挨拶をということだったが、いろいろと手間が省けたようだ。なんという幸運。
私は持ってきたお酒をタッちゃんに持っててもらい、それぞれの名前を反芻しつつ、ぺこりと頭を下げた。
「皆様、挨拶が遅れてすみません」
頭を上げて、まずは謝罪ときちんとした挨拶。
「本来ならば魔法石を渡した直後に皆様にちゃんとご挨拶をしないといけませんでしたのに、後に回してしまい申し訳ありませんでした。改めまして、榊明です。これからお世話になります。こちらに飛ばされていろいろと思うところもありましたが、今はここで生きていくと腹くくりました。今後ともよろしくお願いします」
そしてつまらないものですがと言って領主様に手土産を渡し、ミッションコンプリート。可及的速やかに、邪魔にならないよう撤退だ。
それではこれで、と離れようとしたら、領主様が嬉しそうに私の手を掴んだ。
「私の好きな酒を持ってきてくれるなんて……」
うおう、涙ぐまれている。手土産にした濁り酒はあの温泉の名物で、宿の女将さんが時々領主様に送っていると言っていたんで選んだんだけど、こんなに喜んでもらえるとは。よかったよかった。黒さんと飲むのに高い酒もらったからね。少しでも返せれば嬉しい。
しかし……。
領主様はがっちりと手を握ったまま離してくれない。オジサマの肉厚な手のひらたまらん! などとうっかり癒されてしまったが、私の記憶が正しければ今はこんなことしている場合ではないのでは?
「父上……」
タッちゃんが苦笑いしつつ近づいてきて手をほどいてくれる。
なのにすぐに和三盆神官長に上からふわっと囲われ、セバスチャンには頭をナデナデされ、政宗公の厚い胸板に押し付けられ、シャーペンさんには握手をされた。
オジサマたちの謎行動! だが悪くない!
これだけタイプの違うイケオジに囲まれたら、もうね、乙女ゲームのヒロインになった気分だよ。佳乃ちゃんがいたら『メイちゃん向けハーレムルート来た!』って言いそう。ああ、うっとり。
「おっさんたち……」
呆れるタッちゃんの左右からマー君とカッちゃんが出てきておじ様たちから私を連れ出した。すごく惜しいがまあいい。幸せをありがとう。
「至福のひとときだった」
うっとり呟いたら、なぜか全員頭を抱えた。
いろんな意味で脱力した、と呟くタッちゃん。なんかヒドイ。
読んでいただいてありがとうございます。
予約投稿していたはずがうまく上がっていなくて気が付かず。まあよくある話です、いやないか。
作者は筋肉大好きですが、渋いオジサマも大好きです。




