昨夜はお楽しみでしたね、って、やるかああああ!
部屋に戻ると、食事をした大きな座卓が隅に寄せられていて、布団が4組、並んで敷かれていた。ザ・温泉宿って感じのサービスでとても懐かしい。こういうのはどこの世界でも変わらないのかしらね。
「おおっ、お布団さいこーう! 気が利くぅ」
ノスタルジーに導かれた私は軽く助走をつけて一番奥の布団の上にダイブし、枕にすりすりした。
うん、ふかふかでいい匂い。今日はいろいろあって疲れたけど、おかげでぐっすり眠れそう。
幸せな気持ちで目を閉じようとしたとき、マー君に頭をペチンと叩かれた。
「こらこら、寝るな! あれを見ろ!」
「んー……」
わーれーのーねーむーりーをーじゃーまーすーるーもーのーはー……。
と、定番を呟きつつ、顔を上げてマー君の指先を見る。
指された方向に視線を向けると、部屋の入口で固まっているイケメンたちがいた。どっちも固まってる。表情までカッチカチなので能面みたいだ。
あ、これはひょっとして、布団の場所にも序列があるとかか? 長男が一番先に場所を決めるとかそんなん。
「ああ、ごめん! ひょっとして奥がよかった?」
聞くと、二人は首を大きく横に振り、膝から崩れた。
「無防備にもほどがあると言いますか……」
「俺たち、男としてこれでいいんだろうか……」
なんかぶつぶつ言ってるけど、話し合えばわかるよね、きっと。
というわけでマー君を介して話をしたところ、性別女である私が妙齢の男性三人と同じ部屋で眠るってのはいかがなものかと心配してくれているのだとわかった。
「あー、ごめん、無神経だったわ」
裸の付き合い(?)はしたけど、さすがに寝るときは別々のがいいよね。腐っても聖女の私や辺境伯の嫡男としての顔もある。男の子としては朝のいろいろも気になるかもしれないしね。おばちゃん、高級宿に舞い上がってしまってたよ。反省反省。
「わかった。布団ぐちゃってしてごめん。さっきいた隣の部屋に行くわ」
気を利かせて家族仕様にしてくれた宿の人には申し訳ないが、一組分は予備ということで許してもらおう。
ごめんねと手を合わせると三人はほっとした顔で頷いてくれた。みんないい子だ。私もいろいろ気をつけなくちゃなあ。
大丈夫、一人で寝れるもん。キミタチ三人が楽しそうにこっちでおしゃべりしてたって、一人でいられるもん。さ、寂しくなんてないんだからねっ!
そんなことを思いつつ、ふすまを開ける私。
「……」
前言撤回。
2秒でふすまを閉めて振り返る。
「すみません、そっちの窓のとこでいいので寝かせてください……」
その場で土下座する私に驚いたタッちゃんは、不思議そうな顔でふすまを開け、無言で閉めた。
「メイ、飲むか?」
「お付き合いします」
何とも言えない顔で窓の側にある椅子に座る。温泉地によくある窓の前の休憩スペースで真っ暗な温泉街をぼんやり見ていると、背後でマー君の悲鳴が聞こえた。
きっと部屋を見たのだろう。
何となくムーディな色のランプ。
枕元にはティッシュの箱とゴミ箱。
水差しとコップが二つ並んだお盆。
明らかに替え用の浴衣。
積まれたタオル。
嫌にカラフルな色のちっちゃい箱(たぶん避妊具)。
そして。
大きな布団が一枚、枕はふ・た・つ。
「そっちでヤッて、休むのはこちら、とでも思ってたのかなあ」
男三人侍らせていい身分だなあ、私。どんだけ絶倫なんだ。
そうかー、あんなことやこんなことになっちゃうんだー。
すごいなー、めくるめく温泉パラダイスだなー。
明日の精算時に「ゆうべはおたのしみでしたね」って言われちゃうのかー。
そうかー。
そうかーあ……。
…………。
……………………。
って、やるかああああああ!!
タッちゃんとカッちゃんはいざ知らず、私は今も昔も未開通だぞ(マー君はきっと同士)。
聖女に性女を求めたらイカン、と心の中で呟いた。
おばちゃんだがオヤジギャグだなと思った。
「まあ、人生いろいろだよね」
布団に半分入り、ウーロン茶を傾けながらため息をつくと、三人もしみじみ頷いた。
今、私たちは布団の上でパジャマパーティならぬ夜着パーティをしている。
温泉宿備え付けの服が元の世界みたいに浴衣だったら目のやり場に困るけどこちらの服はTシャツとハーフパンツみたいな作りなのでめくれなくていい。しかも動きやすい。普段はこんな薄着認められないんだけど、温泉街だけは例外で、ゆっくりと休む場所だからと貴賤関係なく認められていて、王族でも同じような格好でくつろぐそうだ。きっと歴代聖女のおかげなんだろう。ありがたい。
「だなあ」
くぴっ、と冷酒のグラスを傾けたタッちゃん。窓側の椅子に座って枝豆をつまんでいる。
魔法で飲み会セットを出したときはびっくりしていたけど、聖女の力ですと押し切った。最初の一口はかなり勇気がいたみたいだけど、元の世界のお酒類が気に入ったようでいろいろ試したいと言う。現金な奴め! でも許す!
「それにしても、メイちゃんには驚くことばかりですね」
同じく椅子に座って冷酒を堪能中のカッちゃんは枝豆よりも山芋の千切りが気に入ったようだ。でも食べながら話すのはやめなされ。イケメンがぬめぬめしとる。絵面がヤバい。
カッちゃんは私がいた世界の話を聞きたがる。いろいろと勉強になるというけど、突っ込んで聞かれるとわからないことが多くて困るんだよね。ふんわりでいいって微笑まれるけどなんか申し訳ない。仕方ないのでオクラ納豆を出したら喜んでいた。ぬめぬめ系の食感はこっちにはないらしい。
「……、チョコうめぇ」
私の横で胡坐を組んでポッキーをかじっているマー君。
そうだよね、君はそうくるよね。こないだ人の顔についたチョコで喜んでたもんね。約束通りパジャマパーティ(仮)やってやったぜ、コンチクショウ!
マー君は一応成人している(成人は17歳なんだってさ)ので乾杯時だけお酒を試したが、私が飲んでいるコーラのほうを気に入ってそればっかり飲んでいた。パチパチ炭酸がこっちにはないんだって。まあ調味料の木にそこまで求めるのは酷だと思うよ。でも見学した時に調味料の粉部門で重曹を発見したから帰って作ってみようかね。
あの部屋を見て「ここで寝るのは俺も嫌だ」と呟いたタッちゃんがここにいていいと言ってくれた。結果的に宿の人に感謝するべきなのか否か、悩ましいところだ。
その流れで夜の時間(?)ぽい話になり、勢いでパジャマパーティ(仮)を提案した。私の世界の食べ物付きと言ったらマー君が率先して場を作ってくれたのがなんとも微笑ましい。
並んでいた布団を端に寄せて、窓際の小さなテーブルにお酒セットをだす。最初は乾杯用に生ビール3つとコーラ1つを出した。よく冷えた生ビールは上の二人には好評だったけどマー君は「苦い」って一口でやめていた。私と味覚が合うかもとコーラを飲ませたら見事にはまったね。
その後もいろんなお菓子やつまみ、酒を楽しみながら交流を深めた。
実は名前以外はあんまり知らないので自己紹介も兼ねたりする。
タッちゃんは25歳。ピクセル辺境伯の嫡男なのでいろいろとたいへんらしいけど、来年には結婚するそうだ。
ちなみに嫁は幼馴染。現在は王宮で侍女をしつつ礼儀作法を学んでいるとのこと。
「幼馴染の嫁……。ヤバイ、萌える、鼻血出る」
「メイ、変な想像すんな」
じたばたしていたらわざわざ椅子から立ち上がってぺちんと叩かれた。もう、照れ屋さん!
王宮にはいろいろと用事があって往復することも多いらしい。遠いので大変だとぼやいてるけど、彼女さんに会えるからいつもウキウキなんだそうだ。帰りの肌艶がいいとカッちゃんにからかわれ、真っ赤になるタッちゃんに思わず悶える。
いいねー、若いって素晴らしい!
カッちゃんは21歳。タッちゃんの補佐として手広く学んでいるところだそうだ。えらいなあ。
カッちゃんにはまだ決まったお相手はいなくて、いろいろな話が来ているところだとか。
「正直、今は学ぶことが多くて結婚とか考えていないんですよ。それよりも紹介された女性と話すほうが楽しくて。それに2.3回会うと本性出てきますしね。ギャップが面白いですがそれだけです」
「うわあ……」
黒い性格だと思ってたら本物かよ!
「銀縁眼鏡が似合いそうだね」
「ん? 仕事のときはつけてますよ」
「うわあ、テンプレ!」
まさか転生した令嬢がいて攻略されるとか!?
私が転移してるから無きにしも非ずでこええ。
うひー、と変な声を上げたら、カッちゃんは笑いながら手を伸ばして私の髪をくしゃっと撫でた。
「正直、ターク兄さんがたくさん子供を作ってくれれば問題ないのでね、楽な身分なんですよ」
「ヲイ」
「というわけで、メイちゃんでもいいんですよ。嫁に来る?」
「……エンリョシマス」
腹黒眼鏡は本の中だからいいんであって、常に隣にいたら心臓が持たん。まあ、カッちゃんならスパダリなれそうだけど、私じゃ力不足っすよ。
マー君は18歳なのは知ってたけど、飛び級で王都の学院を卒業していたのは知らなかった。なんでも今年の春に4年早く学業を終えて、最近領地に戻ってきたのだとか。18歳で4年早いってことは、元の世界だったら大学分丸々飛び越したんだ。まあまあとか言って悪かったよ、マー君……。
ちなみに、やはり彼女いない歴=年齢だった。わかりやすいところ大好きだぞ!
「女の子が嫌いってわけじゃないんだけど、メイが来るまで領地が本当に危機だったから不安でさ。なんとかならないかと図書館にこもってたらいろいろ身について、結果的に学生生活早く終わった」
う、いい子過ぎて泣いちゃう。
「それなのに私の従者にさせられそうだったとか、もう涙なしでは語れない……」
目頭を押さえていると、マー君はむうっと頬を膨らませた。
「俺、そこそこ使えるよ。今は騎士団の訓練にだって参加してるし」
「そかそか」
可愛いなあ、コイツぅ。
思わず手を伸ばして膝頭を撫でてしまった。最初はびっくりしてたのに、なんか嬉しそうな顔でにやあとか笑ってる。コーラで酔ったか?
「メイ、酒お替りー」
「おうよ」
「新しい肴もいただけますか?」
「あいよー」
「俺、甘いのがいい」
「はいはい」
だんだん遠慮がなくなってきた三人に喜びを感じつつ、魔法でいろいろと取り寄せた。
タッちゃんにはハイボール。冷酒が効きすぎたみたいなのでちょっと軽めにしてみたけどどうかな?
カッちゃんはとろとろめかぶ。今度のぬめぬめはフコイダン系だぜ!健康志向大事。
マー君にはアイスやフルーツがたっぷり乗ったハニートースト。深夜にこのカロリーはおばちゃんの敵だけど若い男の子なら問題ナッシングー!
それとは別に唐揚げやフライドポテトなど、定番のものを数点用意すると、三人の目がキラキラ輝いた。
「メイの力ってすごいなあ」
タッちゃんが唐揚げとハイボールの鉄板な組み合わせにしみじみしている。
「これって、普段から使えるんですか?」
カッちゃんの問いに、そういえば考えたこともないのに気づいた。ベアモンが作ってくれる砦のご飯がおいしいから出す必要なかったし、そもそも晩酌とかしないしなあ。
「食べ物に不自由しないってのは強みだよな。メイが一人で逃げたとしても食いっぱぐれることないし」
「出てってほしいんかい?」
「いや、出ていってほしくないから言ってる」
むう、と膨れるマー君が可愛い。今日だけでどんだけかわいさが増したんだ、マー君。
「わかりました、お嫁に参ります」
冗談で言ったらぽふんと赤くなって布団に転がってしまった。そこまで嫌がることないじゃないかと思いつつ爆笑する私たち。屋上でくっついていた時に「全くときめかない」とか言ってた君にしてはいいリアクションだぞ。
「まあそれは冗談として」
あんまりいじめるのもかわいそうなので、話題を変えることにした。
幼馴染とのイチャコラじゃないよ。真面目な話です。
「聖女の力の使い方がいまいちわかんないんだよね。わかる範囲でいいから教えてくれる?」
ちょっと真面目な顔をした私に気づきいたタッちゃんとかカッちゃんは椅子から降りてマー君の横に座った。
読んでいただいてありがとうございます。
少し間が開いてしまいましたのでその分ちょっと多めに書きました!
マー君は温泉の件以来思春期です(笑)




