第42話「迫り来る」
真一は有里たち3人の話をそれとなく聞いてはいたが、今ひとつ自分には分かりかねる世界であったため、口を差し挟む余地もなく、ただ前方を行く一樹と良子の乗ったミラクル軽自動車を見失わないことに注意をはらっていた。
後方から見る軽自動車は、自分で改造したのにもかかわらず驚くほど太いタイヤに太いマフラー、そして軽自動車の企画を大幅に超える車幅が、一種のバケモノ的モンスター自動車のように見える。
実際、ナンバーは普通車で取得されていたが、仮認可であった。時速1000kmの速度は無理としても、直線であれば5~6秒で時速500まで加速するほどのレスポンスを持たせてある。
「400m以上はなれていてくれ」
真一はトランシーバーで一樹に一報を入れた。
「了解・・・」
後方の黄色いポルシェに気づいた真一は、その後方に大型自動車数台も確認していた。明らかに追っ手、と考えるべきである。急速な接近はないが、黄色のポルシェがまさか、いつか信号ダッシュを競った相手の野口千秀であるとは思わなかった。
先頭のミラクル軽が、名神高速から東名高速に入ったころで、ポルシェの前に大型の黒いトラック数台が割り込むように入ってきたのを、真一はルームミラーで確認した。
ポルシェはそれを阻止しようとしていた様子だったが、結局、大型の幅寄せ、並走によりその行く手を遮られていた。
しかし、並走する2台のトラックは速度を速めてBMWに接近してくる様子はなかった。
「不審なトラックが2台、BMWの後ろに・・・400mくらい離れているかな・・2台並んで道路を塞ぎながら走っている。前方には不審車、見えないか?」
真一は一樹に確認した。
「前方にはそれらしき車は・・いないようだ」
「了解・・・」
真一はトランシーバーの一樹に答えると、
「そういうわけですので、間違いなく後ろのトラックが怪しい感じです。しかし皆さん、ご安心ください。私と浅田君がお守りします」
真一は一樹のビフォア・ファイブ・セコンドを見通す能力を信じていた。
名古屋を過ぎ、そこから1時間あまり走った浜松の少し手前に差し掛かった頃併走する大型トラック2台が、それとわからぬようにBMWに接近をし始めていた。
「100kmまで速度を上げてくれ」
真一が一樹に知らせた。
「了解!」
万が一を考えて後部座席に座らせた姉良子が
「ねえ、大丈夫なの?」
事情のわからぬまま心配そうに聞いてきた。
「姉ちゃん、俺のおかしな能力っていうか、ほら、ちょっと前の風景が見えるアレ、知ってるだろ?」
「うん、友達にも誰にも言ってないけど、確かにアンタは変よ。変だけどスゴいんだわよね。でも、それがこのことと関係あるの?」
「詳しいことは良くわからないんだけれど、偉い学者さんが言うにはね、光の速さ以上で反対の方向に向かうと、俺が見た5秒ほど前の光景の前に戻れるらしい。真一が詳しいんだが、今ひとつ俺にも理解できないんだ」
「私には、もっとわからない話よ。・・・それで?」
「うん、・・・ところがね、俺と真一は会社である実験をしたんだけれど、俺には光の速さを超えなくても5秒前の数秒前に戻る力があったんだ。つまりね、事故が5秒前にあったとするよね、その光景は俺の目の前で(今)見えるわけで、すぐに猛スピードでその事故の発生した数秒前の現場に戻れば、事故を未然に防げるのさ」
「まさか~・・・そんなの夢の話よ。死んだ人を生き返らせることができるってことになるじゃない」
「でも、姉ちゃん・・・実験は成功したんだよ」
「私にはとても信じられない」
良子は弟一樹の荒唐無稽な話は、まるで幼い小学生の抱く夢のSF的な世界であるとしか思えなかった。
時速100kmに速度を上げたミラクル軽とBMWに併走する2台の大型トラックも追従してきた。そして、それとは気づかぬ程度に徐々にBMWとの距離を縮めつつ
あった。




