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ファイブ・セコンド(Five Seconds)  作者: 中矢良一
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第41話「有里とルヒ」


運転席には真一、助手席には手錠を外された村井、そして後部座席には右からレイ・ルヒと有里が並んで座った。ドイツの車は外観に比して居住空間が広々としていたため、細身の4人が窮屈になることはなかった。


前方を走る一樹のミラクル・ローテリー軽の法定速度時速80kmに合わせて走ることは、ドイツ車BMWにとって余裕のあるスピードであるため、4人の大人を乗せているにもかかわらず、まさに「オン・ザ・レール」の世界、実に安定感のある快適な走行であった。


真一にとってドイツ車で東名高速道路を走行するのは初めての経験であったが、その路面に吸い付くような走行安定性は、日本車の及ぶところではまるでない、と感じた。




後方には黄色いポルシェが、静かにBMWを見失わない程度の距離を保ってついてきていたが、真一はそれに気づくことはなかった。


「日本がお好きなのですね」


レイ・ルヒの隣に座った有里が聞いた。


「はい、私のルーツです」


村井洋介が、


「彼女はそのことについて、我々日本人と多少異なる見解を持っているようです」


そんな奥歯に物の挟まったような言い方をした。


「異なる見解?」


有里はレイ・ルヒにその答えを求めた。


「コトナル、ケンカイ?というのはどういう意味ですか?」


レイ・ルヒが有里に聞き返した。


「ええ・・・そうですね、難しい言葉です。つまり日本人とは違う考え・・・そういうことです。あなたが(私のルーツ)と言ったことを、村井さんはそれは違うのではないか? と思っているのでしょう。そうですね?村井さん」


「端的に言うとそういうことです。仁醍王陵墓古墳にご自分の祖先が眠られている・・・そのようにお考えのようですよ。それは違いますから。第15代仁醍王のお墓であることは歴史上明かです」


「村井さんは不勉強すぎますわ。それでは中学生の知識です。仁醍王陵墓古墳イコール前方後円墓(鍵穴の形)をした5世紀に倭の国を治めた王のお墓・・・そんな

単純なものではありません」


「えっ?!・・・しかしそれはおかしな話ですよ。王室庁が管理しているわけですし中に入ることはできませんが、資料館には甲冑(よろい、かぶと)や埴輪なども展示されているではないですか」


「甲冑は模型です。棺桶に当たる石棺も同じく模型です。なぜ実際に発掘された物が展示されていないのでしょうか?そこには謎があるからですよ」


「どんな謎ですか?」


村井は少々熱くなって有里と議論を交わし始めた。


「日○○紀」や「古○記」に書かれている仁醍王は、中国で書かれた「宋書」に出てくる五王の一人なのですが、年代に100年以上の誤差があるの。つまり、日本と中国どちらかが嘘を書いているということなの」


「中国が年代を認識し間違えていることもあり得ますよね。私はそう思いますが」


「中国は日本の2倍以上の歴史を持つ国家です。それと、「宋書」に嘘を書く必要も政治的背景にはないのです。むしろ、日本側に改ざんの必要性があった、そう考える方が自然なのです」


「飛躍した考えだな、それは」


村井は窓の外に目をやった。


レイ・ルヒは有里と村井の様子を悲しげな目で見守っていたが、


「2人とも・・・ありがとう、ありがとうございます」


そう言って有里の手を握った。


「ううん・・・喧嘩してるのではないのよ。あなたのお考えが間違いでないかも知れないことを、彼にお話しているだけなの。心配しないでくださいね」


「ありがとう。私、国に帰ります。もう日本に来ることもないでしょう」


窓外に目を落としていた村井洋介がレイ・ルヒの言葉でハッとしたように彼女の方に向き直り、何かを言いかけたが、結局言葉はなかった。


「村井さんのことを好きなのね」


有里はストレートに聞いた。


「有里さん!・・・彼女は」


「好きです。大好きです」


レイ・ルヒは目に涙を滲ませて呟いた。


「村井さんはレイ・ルヒさんの気持ちに、どうお答えになるおつもりかしら?」


有里は村井にというより、正面を向いている村井の背中のあたりに軽く言葉をぶつけた。


「精一杯答えて見せますよ!あなたに言われるまでもなく・・・」


「うふふ・・・ムキになってらっしゃる。でも安心しました、私」


「安心?私は安心などできませんよ。逮捕されることは間違いないし、彼女は国に帰る。しかも正式な国交はない・・・」


「逮捕はされません。事情聴取はしますが、それは私が担当します。父の田中は、あなたを逮捕したり、起訴などしませんわ。この来日は極秘裏ですもの」



日本と言う国が、今から1500年も昔にどのような人物によって統治されていたのか・・・?真実日本人の手によって国家が治められていたとしたなら、前方後円墓は一般に公開され、そして発掘された甲冑などの歴史的遺物は本物が展示されるはずである。有里は常に考えていた。


そこには100年、いやそれ以上の年月、日本の国を統治した外国人を含めた別の人物の存在が調べれば調べるほどはっきりと浮き彫りになる。


レイ・ルヒの祖国では、すでにそれが自国であるという文献を所持しながら公にしていないだけかもしれない。


レイ・ルヒはその国の王女である。観光目的で秘密裏に来日し、純粋な心で先祖を敬い、墓参をしたのだとしても、それは今や日本国の汚点になるようなスキャンダルにはならないはずである。


しかし、周りに蠢く怪しげな灰色の影は、一体何なのか?


有里とレイ・ルヒは国を隔てて、しかし、その心情には説明など何も必要とはしない硬い結びつきのあることを、互いに感じあっていた。





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