第38話「おかしな2人達」
レイ・ルヒと村井洋介は、そもそも来日した外国の要人と護衛の関係、浅田一樹と磯貝有里は大学の同級生、そして一樹の幼馴染で会社の同僚である藤本真一と一樹の姉良子、この3組のカップルは、時を同じくして大阪に足を踏み入れていた。
東海道新幹線により、東京~大阪間は3時間10分という短い時間で結ばれてはいるが距離は600km離れていることに変わりはない。
奇妙な関係の中から生まれた2人ずつの男女。追う立場の有里、追われる立場の村井そこに一樹の姉の村井に対するささやかな”逆襲劇”・・・それらのどのケースも
緊迫感の薄い、ゲームのようにも思われた。
そこには大阪という都市の、関西の大都会でありながら、どこかに東京と違ったおおらかな風が流れていたからかもしれない。
レイ・ルヒと村井洋介は、相変わらずミナミのビジネスホテルに身を置いていた。
一樹と有里はレイ・ルヒたちとすれ違ったビジネスホテルを基点に、有里は一応辞職までの間、警察官の職務としてレイと村井の追跡をするようなフリをして、実際には仁醍王陵墓古墳や、その周りに点在する陪塚などについて資料館の中を調べ歩いていた。一樹もそれに付き合ううち、次第にこの古墳のミステリーな部分に興味をそそられるようになった。
一方、真一と一樹の姉良子は、やはりミナミのホテルで別々に部屋を取り、そこから、ミナミの夜に出かけようと話しを決めていた。
この3組のカップルは、同じ時刻に道頓堀の極近い周辺を散策中、僅差でそれぞれが路地を折れ曲がり、すれ違ったため、顔を合わせることがなかったのではあるが、
一樹にはレイ・ルヒと村井洋介、そして真一と良子の2組のカップルが一瞬同時にそれぞれが一つ通りをおいた路地を右と左に曲がる5秒前の光景が、例によってはっきりと見える瞬間があった。
一樹は迷った末に、自分は磯貝有里をその場で待つように言い残し、まず、村井とレイ・ルヒ2人の曲がった路地へ走った。
「村井さん!」
一樹は20mほど先の村井とレイ・ルヒに声をかけた。
村井は一瞬建物の壁にレイ・ルヒと二人貼り付くような体勢で身構えた。
「心配しないでください。浅田です、東邦工業の・・・良子の弟の」
村井は警戒しながらも、一樹の顔を確かめるように目を細めた。
「私は村井ではない、人違いだ」
「いいえ、それはもうわかっていますので、ぜひ、私の言うことを聞いて下さい。」
村井はなおも同じ体勢でレイ・ルヒをかばうようにしていた。
「あなた方二人を、警察関係者は力を入れて捜索はしていません。お連れの女性は外国の方ですね。でしたら、早く東京にお帰りください。その警察関係者と私は、今
同じホテルにいます。お二人が夕べ泊まられた同じホテルにいたのです。彼女は
女性警察官です。あなたもご存知の磯貝有里さん、田中さんの娘さんですよ。これは公の事件にはなっていません。今のうちに東京へお帰りになるのが賢明かと思います」
「わかった、ありがとう。感謝する。・・・ホテル○○にいる」
村井はそのままレイ・ルヒを懐に入れるようにしてその場を立ち去った。
一樹は一仕事終えると次に真一と姉良子が入っていった路地に走った。
しかし、時間が経っていたために二人の姿は見えなくなっていた。
英会話教室経営者、野口千秀は黄色のポルシェに乗って東名高速道路を大阪に向かい、まるで徐行運転でもしているかのような速度で走る国産車の横を時速200kmで追い越し車線から走行車線にはほとんど戻らずに走り続けていた。




