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ファイブ・セコンド(Five Seconds)  作者: 中矢良一
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第25話「失踪」


「知り合いか?」


運転席で一服していた真一が聞いた。


「姉の婚約相手だよ・・・」


「何!?あの男がか?どうする?」


「どうにもしようがねえ・・・相手は姉貴じゃないし、あれはもう完全にできちゃってる」


ある夜、家に帰った姉が、自室ですすり泣く声を聞いていた一樹は、おおよその事情は察していたものの、その相手と恋人の熱い抱擁の現場を、まさかこのような場所で目撃するとは夢にも思わなかった。


「降りてみるか?」


真一が言った。


「いや、そっとしておいてやろう。縁がなかったんだ、姉とは。こんなことを言うのもなんだが、弟としては、あの男、例の田中利一・・・憶えているか?」


「ああ、あのカツ丼、警視省の・・・」


「そうだ。田中とあの村井洋介って言う男なんだがな、親類だ。俺はかえって良かった。親戚付き合いはしたくなかったからな・・・」


「綺麗な女だな・・・日本人離れしている、ん!?まさかあの女!」


真一が声を殺しながらも興奮気味に言った。


「田中利一、親類の村井洋介。あり得ないことじゃないな。しかし、とんでもないことになってるな。なんでこんなことになってるんだ。どうなるんだ・・・この2人は?」


一樹は姉の傷心を気遣うことなどまるで忘れて、抱き合うレイ・ルヒと洋介を遠めに見ながら、そんなことを呟いた。





日が落ちてあたりは薄暗くなっていた。



レイ・ルヒと洋介は、その後湖のほとりにしばらく佇んでいたが、やがて暗闇にまぎれて、2人の姿は見えなくなった。




その後・・・レイ・ルヒと洋介の行方がわからなくなった。しかし、入国自体秘密裏であったため

何の報道もなされぬまま、田中利一と関係者、警視省の一部の人間も、秘密裏に2人の行方を躍起になって追っていた。




レイ・ルヒと村井洋介はその日のうちに大阪に到着していた。


失踪が発覚する直前に東名、名神高速道路を使って、洋介の運転するBMW2002は、安定した平均速度150kmほどの走りで、楽々と400kmあまりの道のりを走りきっていた。


夜12時近い大阪の町は、「眠らぬ町」の異名をとるだけのことはある。

これからが大阪の町賑わいの時・・と言わんばかりにネオンを煌々と輝かせていた。


レイ・ルヒと村井洋介はとりあえず、ビジネスホテルに時間差を付けて入り、別々の部屋をとった。


ホテルなどと違い、細かなチェックも入らぬこうしたビジネスホテルは大阪のような大都市では徐々にその数を増していた。


およそ8畳ほどの部屋には、和洋折衷ではあったが、小奇麗な木製のベッドが置かれ、テレビ、小型の冷蔵庫、そして小さなテーブルがこじんまりとした感じで配されれていて、


風呂や食事は原則的に個人が外に出て済ますシステムになっていた。



翌朝洋介は周囲から悟られぬようにレイ・ルヒの部屋を訪ね、再び時間差を置いて、食事に出かけた。


同じ洋食屋に別々に入り、違う席で食事を取り、そのまま変装用の衣類を買うため、なるべく大きなデパートを探し、ごく地味で目立たぬ作業服に近い衣類を自分に、キム・ルヒ用にはサイズを選んで女子の事務服を買った。


とにかく、新しく男女物を購入することを避けた。そこから足がつくことを承知していたからだ。


目立つBMWの置き場所には、大阪万博の跡地を選んだ。そこはいまだに全てが解体されておらず、洋介はテント屋で大きなテントを購入、それで車全体を覆い隠して、他の資材の中に溶け込ませた。


移動は全てタクシーを使った。男女2人の作業員がタクシーを使うのもおかしなものではあったが、何よりも安全な移動方法であった。


「お仕事でっか~?寒うなりましたさかい、外仕事は骨が折れまっしゃろ?」


「食うためや・・・」


洋介の母方の祖父母は大阪に住んでいる。子供の頃は夏休みの間、祖父母の家に来ていた。


つまり大阪弁が板についていた。洋介は祖父母の下を訪ねるつもりは毛頭なかった。


すでに連絡は入っていると考えねばならない。しかし、洋介の足が自然に大阪の祖父母の元に向いたということは、つまり、そのことをすでに察知した周辺の人間が、大阪を中心に捜索活動を強化していると言うことに他ならなった。


「S市にやってくれ・・・」


洋介は運転手に言った。


「はいよ・・・」


洋介は、このような事態の最中さなか、なぜかレイ・ルヒをある所へ連れて行きたくなった。


そこはレイ・ルヒ自身が行かねばならぬ所でもあった。



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