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ファイブ・セコンド(Five Seconds)  作者: 中矢良一
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第21話「破談」


村井洋介は相変わらず芦ノ湖のホテルにいた。レイ・ルヒの護衛というより、自分自身の骨休めでもあった。

しかし、相変わらず怪しげな夫婦者の視線が、洋介とレイ・ルヒの行動をそれとなく監視していることはわかっていた。この夫婦者は日本人らしいが、レイ・ルヒと自分を見張る役目を、どこから帯びているのか、東側から直接的に指令を受けたスパイか、日本の関連組織の回し者なのか・・・

特別変わった行動に出る気配はなく、どういうわけか、危険性があるような緊迫感はまるでない。ただ、様子をうかがっているだけ、そんな感じにしか見えなかった。


洋介は、その夫婦に注意を払いながらも、レイ・ルヒと芦ノ湖周辺の土産物屋などを巡り歩き、まるで新婚旅行のように心の底から風光明媚な観光地の旅情を満喫していた。


洋介の頭の中から、見合いをした一樹の姉、良子のことはすっかり忘れ去られていた。


レイ・ルヒ護衛の一週間はあっという間に過ぎ、交代要員がやってきた。

洋介がホテルを後にしようと、フロントで退去手続きをしていると、その横で例の夫婦者も清算の手続きをしていた。女の方が、洋介を見て微笑んだ。男の方は、軽く洋介に会釈して、やはり敵意や警戒の面持ちというより、優しげな、あるいは媚びた顔をした。


(一体何者なのだ?)


洋介には、まるでその夫婦らしき人物たちに心当たりはなかった。


封鎖状態の割に芦ノ湖はそう静まり返っているわけでもなく、長期宿泊者や、大金持ちの別荘なども多くある関係から道行く人も少なくなく、危険度も高ければ、逆に安全度も低くはなかった。


帰りの道は空いていた。封鎖はまだ解かれていないのだろうか?


洋介が小田原入り口まで来ると、驚いたことに封鎖どころか警備車両やパトカーの1台すらもその入り口にはもういなかった。


(どういうわけだ?)


洋介はこの不自然な光景に、何か得体の知れない動きを感じた。しかし、それが一体何なのかはわからなかった。要人レイ・ルヒは間違いなく芦ノ湖に滞在しており、交代で警備もなされている。


あの奇妙な夫婦連れも、自分と一緒にホテルをチェック・アウトしている。


レイ・ルヒという女性にしても、世界の東西を動かすような人物ではない。洋介がほのかに恋心を抱くほどの優しい女性・・・




洋介はその夜、一樹の姉良子と、初めて食事をしたレストランで落ち合い、そして今回の結婚について、正式に断りを申し出た。


良子は一瞬顔を硬直させたが、30過ぎの女性らしく、すぐに心の平静を取り戻した風を装い、素直に理由も聞かず申し出を受け入れた。


その夜、帰った姉の部屋から、小声ですすり泣く声を、部屋の前を通りかかった一樹は聞いた。しかし、それがおそらく結婚の話に何らかのトラブルがあったであろうことは、容易に想像がついたので、黙って自分の部屋に戻った。

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