第20話「父との話」
理論通り、実験は成功したのかもしれない。
真一は確かにそう考えてはいが、自分で確信して行った実験にもかかわらず、いざ一樹がその実験で見事に自分の理論を実証して見せたことに、今度は真一が戸惑ってしまった。
あの妙な車の光は時間を超越した証拠なのか?いや、超音速であるならともかく、400mの距離でのトップスピードは時速90~100km・・・目で見えるような速さでしかない。
あの光。光った瞬間に映画のコマ飛びのような現象もあった。
そして、空砲は遠隔装置のスイッチを入れても不発だった。
*
ある日曜日、真一の父隆介は、いつものように家業の時計屋で妻春江の作った昼食弁当を広げ、お茶を入れにやってきた春江と並んで仲良くその弁当をつつき合っていた。
仲のよい夫婦であった。定休の水曜日もほとんど自宅の表にある店は半休業で、お客がくれば快く応対する仕事熱心さは、真一も尊敬せざるをえない部分ではあると思いつつも、
(休みのときぐらい、ゆっくりした方がいい)
とも思っていた。
両親が仕事熱心のあまり家族は旅行にも行ったことがなかった。それが不満というのでもなかったが、そろそろ両親もいい歳になってきて体の心配もあった。
「たまには2人して旅行にでも行ってきたら~」
2番目の姉久美子が店に顔を出し、一言言ってどこかへ出かけて行った。
真一は子供のころから、日曜は店の手伝いで小遣い稼ぎをしていたが、今では、時計の分解掃除、修理・・・何でもでき、父親がお客のところへ配達に行っている間店番をすることもあった。真一の方が腕は確かだ・・・という、お客の評判もまんざら的外れではなかった。入手不可能なアンティーク時計の歯車を、薄い鉄板から削りだして作ってしまうほどの器用さは、父隆介にもなかった。
「店、継ぐ気はないか?」
隆介は時たま真一に尋ねることがあった。
「まあ、会社クビなったらね。オレは時計屋が嫌いではないけれど、車ほどじゃないし・・・」
真一は決まってそう答えたが、その実、時計屋を継いでもよい気がしていた。
「ガンギが折れてるんだけれど、この手は作るしかないね、父さん?」
「ああ、任せるからその辺の金属当ててみな」
「はいよ・・・」
「時計大手のSEAKOかツチズンにでも就職すればよかった」
隆介は、誰にともなく呟いた。母春江が笑った。
「父さん・・・一樹ってさ、子供の頃から時間のことでは、俺たちとはどこか違うところがあったよね?あんな奴って、時計屋家業長くやってきて、他にもいた?」
「ああ、いたよ・・・しかしな、時計屋での話ではない。戦争中のことだ。サイパン島ではアメリカ軍と酷い撃ち合いになっただろう。そのときに逃げ惑う男たちの数人が、
「撃つな~!!」と戦友をかばってか、大声で叫ぶんだよ。
しかし、そう叫んだときには、助けようとした戦友はもうすでに撃たれて倒れていたのさ。かなり後ろで。人間の(助けてくれ~!)っていう思いがな、撃たれて息絶えるまで続くんだと、父さんは思った」
「父さんはどうだった?」
「見なかった。見る能力がなかったのだろう。それより、恥ずかしいが、自分が助かりたかった。戦争に行った人間が、皆勇猛果敢に戦地で戦っていたわけじゃない。戦争は負けると思っていたからね、父さんは・・・」
確かに、一樹という男は思いやりの塊だ。いや自己犠牲をもいとわぬ、男気の強い野生児・・・
東名の事故のときも、彼は救援にいち早く走った。自分は計器の測定をしてから、その後現場に向かった。大きな違いがそこにある。
能力、人柄・・・父の戦争における体験談は、真一の心を鋭い刃物で大きくえぐった。




