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ファイブ・セコンド(Five Seconds)  作者: 中矢良一
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第18話「10秒フラット」

食事の後、洋介はレイ・ルヒを連れて、湖のほとりへ散歩に出た。


怪しき2人は、やはりレイ・ルヒと洋介の後を、自分たちも散歩を装って、それとなく、といった感じで付いてきていた。約束どおりレイ・ルヒと洋介は何の会話も交わさずにいたが、かえってそれは不自然であると考えた洋介は、


「私が来ること、喜んでいただけていますか?」


そんな風にレイ・ルヒに聞いた。


レイ・ルヒは、約束を守るため、声は出さず、恥ずかしそうに、こっくりとうなずいた。


「ありがとう・・・」


洋介は自分の口から出たその言葉はキムの代弁であるような気がして気恥ずかしかった。


その気恥ずかしさから、レイ・ルヒの体を抱き寄せた。驚いたレイ・ルヒの体は一瞬その手から逃れる姿勢をとったが、すぐにそれは緩み、洋介に体を任せるような形になった。


「何も言わなくていいですから、ずっとこのまま歩きましょう」


レイ・ルヒは、やはりうなずいた。命令や言いつけに従順な彼女の態度に、洋介は、彼女が暮らす

国における国家体制の一面を観た気がした。


洋介は田中利一に直接電話を入れ、レイ・ルヒの警護をその後も引き続き、一週間自分に継続する許しを得た。田中はこの件についての全権を国から一任されていた。



          *




その日、一樹と真一は自分たちの会社にあるテストコースの脇にあるガレージにいた。


「100mの世界記録は10秒を切っているの、知ってるよな?」


真一が一樹にそんな風に聞いた。一樹はコーヒーを入れていた。


ガレージの中にはコーヒーを飲むための小さなテーブルと椅子数脚が置かれていた。


真一も、一樹もコーヒー無では居られない体質である。特に味にうるさい一樹は、サイフォンを持ち込み、


「ああ、知ってる。1秒に10mも走るんだな。速いよな」



「おっ!計算速いな!」



「お前、ぶっ飛ばされるぞ!それがわからんでどうする?この俺様が」



「では聞くがな、それは時速何キロだ?」


「また始まった。そういうのはお前の仕事だ。会社という所は分業化されている。俺にはそれに答える義務がない」



「時速36キロだ」


「なんだ、そんなものか。意外と遅いものなんだなあ、100m選手なんて者はさ」


サイフォンからカップに注がれたコーヒーが、2人の頭の神経物質をツンと刺激したような、あるいは心を和らげたような・・・


「しかしな、原付バイクよりは速いんだぜ。1秒で10m・・・0.5秒で5m。」


「俺だって自分のことは知っているさ。頭のどこかに異常があることくらい。なるべく考えないようにしているだけさ」


一樹はコーヒーを飲みながらそんな風に言った。


「違う違う・・・そんなことを俺は言ってるんじゃない。第一、異常ではないんだよ。お前はデジャブ・・・って知ってるか?」



「デブなら母ちゃんだ・・・」



「違うよ~っ!!デジャっ!!」



「ごめんごめん・・・過去に見た光景が見えるってやつな。うん、俺も自分がそれではないか?と、いうより、その変化したものではないかと考えたことは何度もあるよ。自分のことだからな」


真一は一樹の口から出た自己分析とでも言えるような意外な言葉に驚いた。


「お前ね、そう言う風に考えていたのならもっと早く言えって。今日からある実験をしてみたいん


だが、付き合う気はあるか?」


「実験?」


「お前に見える光景は、明らかに過去だ。何の役にも立たないと思う人間が多い。しかしな、それは大きな間違いだぞ。人間は過去を残そうとして、洞窟に絵を描いた。それが壁画だ。そしてやがて

それは動きのある映画になった。1939年の映画を40年近く経った今我々は観ている、しかしそれは虚像であり、その撮影現場などには行けない、当たり前だよな。ところがお前は映画を観ているのではない、実際を観ているのだ。虚像ではない。もしかすると、お前は、(ことが起こる)手前の世界に戻れるかもしれないんだ・・・」


光の速度以上で動けば過去にも未来にも行ける。理論的にそんなことを唱える学説があることは一樹とて知らぬわけではなかった。しかし、自分の奇妙な能力と、真一の力説する理論がどのような実験を経て、何に貢献できるのか・・それを考えると複雑だった。


「協力はするさ。それで戦争でも回避できたら俺は英雄になれるからな」


「そうなることも、夢ではないんだぞ。日本に重要人物が来ている。東西融合をもくろむ国家の代表らしい、はっきりそうとは言えないが。当然東側はその命・・・欲しいだろう」



「何!?その話は本当か?」


「田中利一が口を滑らせたのさ。今その人物は芦ノ湖のホテルにいるらしいぜ。しかも女らしい」


「女か!!どこの国だ?ヨーロッパか?中東か?」


「わからんが、アジア周辺ではないかと思う」


「よし、わかった!実験を始めよう。何から試すんだ?」


「5秒前のアクシデントを故意に起こす装置を作った。コースを時速80キロで回り続けろ。そしてアクシデントが目の前で見えたら、そこからスピンターンで引き返す・・・最初はそれでいい」


奇妙な実験が2人の間で、極秘のうちに始まった。


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