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ファイブ・セコンド(Five Seconds)  作者: 中矢良一
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第16話「父と娘」



磯貝有里のアパートの前で、浅田一樹はかれこれ30分ほど、彼女の帰宅を待ったが、一向に戻る気配が無かった。時計を見ると8時7分過ぎ・・・


「ああ、また変な動きしてやがる・・・・この時計、じゃなかった、俺の目とか頭だ、変なのは」


一樹は独り言を言った。黙っていると、なぜか今日は沈み込みそうな気がした。


もう1度時計を見る、やはり秒針は一樹が時計を見た瞬間に5秒の区間、つまり数字の4から5、6から7の間を一秒弱の速さで動き、その後は普通の動きになる。


『・・・・・・・何かの才能かもしれない』


時計屋である同級生藤本真一の父親は、そんな風に言った。また、あの東名での炎上事故のときも同じく、真一は距離がどうのこうの、と矛盾を並べ立てたが、要するに自分は5秒の感覚が一般の人間と違うのは確かである。それがどうだというのか。何かの役に立つのだろうか?


友人の無くし物を見つける程度が、これまでの功績であり、特別それが今後の人生において何かに貢献していくなどということはないだろうとも思った。脳の異常なら、それは病気でしかない。霊能力・・・最近の流行にしても、5秒以前のしかも、過ぎてしまったことなどが見えても能力ではなく奇人だ。一樹は急に寂しくなった。



「帰るッ!」


「あら、どうして?せっかく帰ってきたのに」


背中から有里の甘えた声がした。



「あ、いや、帰る、帰らない、帰るって占いがあるじゃないか??それだよ」


一樹は寂しさと、少しだけイラついて出した声の大きさを反省した。大人気ない。


「う~ん・・・花占いみたいだけど違うな!私が遅いからすねていた感じがするわ」


有里は少々意地悪いことを言って微笑んだ。


「まあ、バレタか。そのあたりが本音だな。さすが警視省!ところで警視省で刑事やってるの?」


「刑事ではないわ。浅田君、司法試験は?」


「ああ、一次は何とか。その後会社勤めでは特別必要ないので」


「そう。浅田君すんなり一次受かったものね。勉強してた?見たことないんだけどな、勉強してる姿。私なんか徹夜で10キロも体重減ったのに・・・今は10キロチャンと戻りましたけどね」


「オレの苦手は分数と、ほら、あの距離割る何とかは時間で、ってあれ。震えが来るよ。連行されたときにね、同乗の藤本真一、真一知ってるよね?奴がしきりに距離に矛盾があるって言うんだけれど、よくわからなくてさ」


「そうそう。浅田君さあ、私が(あら?鉛筆どこ置いたっけ?)って探していると、必ずポケット

に入れたじゃない、とか、ノートにはさんだよ、って。どうして見てもいなかったのにわかるのかな

あ?って不思議に思ったのよね、よく。特殊能力?」


「真一の奴が言うには、5秒前の光景を観ることができる、そう言うことらしい。しかし5秒後の未来の光景を観ることができたら、犯罪も防げるけれど、5秒前では、バーンて撃たれた後なのだからその人は死んでいるわけだろ?何の意味もないよな?」



「どうなのかなあ?でも、もし5秒未来が観えたなら(帰るッ!)なんて言わなかったわよね私がその5秒後に帰ってくるのがわかったんだから」


「まあ、そうだね。しかし君は刑事でないなら、一体なにしてるの?警視省で」


「警察官ではあるのよ、でもね、それ以上は言えないんだなあ~」


有里は、少女が内緒ごとを隠して男の子をからかう程度の軽い感じで言った。


「そうか。警察官には一般人には明かせない秘密は、あるよな。俺の会社にも機密があるし


聞かないようにしようとも思ったんだが。さあて、まだ早いし、どこかに出かけよう、腹ぺこだよ


俺。ずっと何も食わずに、あ~っ!もう9時になる。何か食いに連れてって~~」


一樹は情けない声を出した。


「はいはい、わかりました。では酢豚を・・・」


ギョッという一樹の声なき声・・・・・・・


「嘘よ。もうあんなお手間はかけません。私、お料理最低ですものね」



「そ、そんなあ。美味しかっよ」



「嘘が下手ねえ、浅田君」



「かつ丼・・・そうだ、今一番食いたいのは、かつ丼だよ!!この間のあのかつ丼の店って、警察の近く?」

「え? ええ、そうよ。かつ丼がいいの?」


「うん、かつ丼かつ丼!」


「うん、わかった。では行きましょう。12時までは営業してるから。差し入れの店よ」


「へ~、田中さんて人、そのことは知っているのかな」


一樹は何となくどうでもいいようなことを聞いた。



「あの人ね・・・私の本当の父なの」


磯貝有里の口から、思いもよらぬ事実がこのような状況の下で語られようとは、夢にも思わぬ一樹であった。



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