第15話「デート」
レイ・ルヒの護衛は、翌日警視省柔道場で胸を貸す弟子の警察官が、命を帯び村井の交代要員として、朝一番でホテルに到着、その車で村井は東京へ引き返した。封鎖状態の道路は閑散としており、まるで日本の終焉を迎えたかのように静まり返っていた。
熱海を過ぎ小田原に入ると、いつものように往来する車や人で、村井の心は逆に静まった。
(異常事態だ。こんなことのために主要道路を封鎖するなんて)
しかし、彼はそのことよりもレイ・ルヒのことを考えていた。
30歳にも満たない一人の若い女性が世界の何を、どう変えるというのか?
湖畔のほとりで彼女が流した大粒の涙。一人の女としてみた場合、それは手を差し伸べたいほどにいとおしい。要人としてみた場合・・・その内に秘められた世界の今後を左右する強大な国家権力の行使が可能な立場。村井洋介という自分が小さく思えた。
とあるタワービルの8階、午後6時30分に一樹の姉良子は、その一角にある喫茶店で村井と会い、
その後、12階のレストランで食事をした。2人にとっては初めてのデートであった。
メインは魚料理、それにサーロイン・・・・皮肉にも芦ノ湖の料理と似通っていた。
「ご飯にしますか?パンがよろしいですか?」
ボーイがまず良子に聞いた。
「パンで・・・」
「かしこまりました。お連れ様も・・・」
「いや、私はご飯にしていただきましょう」
村井はどちらかといえばパン食派である。朝食に味噌汁、納豆などは食べたことなどなかった。
レイ・ルヒのことを考えていた。明らかに村井の心は目の前の良子にはなかった。
「いかがです?お仕事の方は」
そう切り出しておいて、村井はそれに対する良子の返事をまったく聞いていなかった。
「ご結婚のお話、お受けしようと思います・・・」
「え、ずいぶん急なご返答でね」
村井の顔はまさに、仰天の様相であったのだろう。
「・・・早すぎますかしら?」
「・・・あ、い、いやいや、今回のデートが初めてですし、私は構いませんが、良子さんは私の何もご存じないのですから、よく知っていただいた上で、そんな風に考えました」
「結婚て、そんなことではございませんのよ。一瞬でわかりましたの。村井さんの思いやり・・・私の一目惚れですわね」
良子は下を向いて恥ずかしそうにした。
(確かにその通りだ。外国のお姫様に恋してどうするんだ、俺は・・・?!)
「嬉しいお返事、ありがとうございます。では早速そのことを両親に報告させていただき、仲人さんを通じて正式なお返事を・・・」
良子は村井から、この場で快い返事を欲しかった。しかし、家柄を考えると、彼のそうした返答の仕方もあちら流なのであろうと思い、
「お返事、お待ちしております」
と、その申し出を受けるしかなかった。村井はこの話を断るための時間稼ぎをしている自分に気づいていた。




