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ファイブ・セコンド(Five Seconds)  作者: 中矢良一
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第13話「メカニック田中利一」


「これですか?!」


田中は一直線に東ドイツの車へ小走りに駆け寄った。その様はまるで子供のようであった。


「ボディ、内装、それに電気周りやエンジン周辺は、まずお粗末ですが・・・エンジンは・・・」


真一は車体から外された、こじんまりとしたエンジンを指差した。


「2気筒なんですか??2スト?4スト? ああ、4ストだ!!2連のキャブですか?なんと!この悲惨な車に」


田中はなれた手つきでエンジンのヘッドカバーを外したとたんに叫んだ。


「ダブル・オーバー・ヘッド・カム・シャフト!!まるで商業車にスポーツオートバイのエンジンを

積んでいるようなものですね!!東側のやることはいちいち理解に苦しみます」


真一は、田中の素性について、まったくわからなくなってきた。

政府関係者ではありそうだが、この手際は間違いなく、大学は工学系・・・しかも、自動車については趣味の域を超えて、おそらくその専門分野にしばらくは身をおいた人間・・・自分に近い匂いがする。


「驚いたでしょう?私はね、親の反対を押し切ってT大の工学部を卒業したのですよ。しばらくは自動車の大手にいたこともあるのですよ。今はまったく畑違いで仕事をする羽目になりましたが、それは家業ですから仕方ないのですがね」


「やはりそうですか。道理でお詳しいわけですね。それで、先日おっしゃっておられた

(何者にも追いつけない車)の開発についてなのですが、このことは、今回の重要人物の護衛にその車をお使いになられる・・・そういうおつもりですか」


「まあ、そんなところでしょか」


「それでしたら、やはりスピードよりも、護衛者を堅牢無比な車両になさる・・例えば戦車であるとかあるいは空路を選ばれて、護衛機を何機も回りに配するとか・・私はその方が、明らかに安全性が高いように思うのですが」


「そういうことも言えますね。戦車か・・・空路は閉ざされています。低空飛行はレーダーの網をかいくぐりますから、敵機の捕捉が困難で実に危険です。またパイロットがスパイであった場合は自爆

する危険もあります」


田中の話はいちいちもっともではあった。


「お!何か書いてありますよ、ここに・・・」


田中はエンジンのヘッドカバーにドイツ語でなく英語で


(Can you understand it that you are looking now?)


と書かれた一文を見つけ、はしゃいだ。真一はその文章を読んだ。


「今お前が見ているもの、理解できるか?・・・」


田中が訳した。


「どういうことですか??どうも英語は不得意で・・・」


「皮肉ですよ・・・英語で書いてあるということは、何らかの理由でこの車が西側に渡って分解されたときに、その西のエンジニアに対する皮肉として1作業員によってかかれたものでしょう・・・

東にも、こんなユーモアがあったのですね~。東西の壁は、もはや何の意味も持ちません。来日した

重要人物は確かに才女ですが、大きな動きを方向付けているのは、やはり彼女の国家です」


田中は、やはり慣れた手つきでエンジンのヘッドカバーを被せ直し、


「とにかく・・・協力をお願いいたします。ミラクル・ローテリーの実用化はその後の問題としても今回、重要人物を乗せて沼津から大阪までを高速道路を使って走っていただきたい。彼女の観光ルートなのです。まあ、考えてみればのんきで贅沢な話ですよね、命狙われている割には」


田中はほとほと疲れた・・・といった面持ちでため息をついた。


真一は、「悪魔の傷跡」の問題点をほぼ解決していたが、そのことを田中にこの時点では言わずにいた。会社にも報告はするつもりがなかった。



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