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ファイブ・セコンド(Five Seconds)  作者: 中矢良一
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第12話「箱根封鎖」



三島から箱根への上り口に

「事故のため通行できません。迂回してください」

という看板が立てられ、車輛は全て沼津へ引き返していた。

小田原から箱根・沼津へ向かう車輛も熱海から峠に入る入り口で同じ看板を見て、全ていったん熱海に引き返していた。



その日の東名高速道路は上り下り大渋滞となり、ちょうど運悪く沼津に向けて走っていた真一の運転

するミラクルローテリーエンジン搭載の軽自動車は、時速10キロそこそこのマラソン走行を強いられていた。ローテリー・エンジンは低速による温度上昇がほとんどなく、10数キロをほとんどセコンド・ギアで走行していても、水温計の針は常時真ん中以下を指していた。路肩にはオーバーヒートして煙を噴き上げた乗用車が数台止まっている。


偶然にも路肩に止まる車の1台に、白い大きな外車、一桁ナンバーのリンカーンを見つけると、真一はウインカーを出してその車の後方に止まった。御殿場インターのすぐ手前であった。


車を降りた真一はリンカーンの長い車体の先端まで行くと、運転している人間にはめもくれず、ボンネットに手をかざした。しかし、温度は人肌ほどでしかない。


「やあ!!ええと、東邦工業の・・・確かエンジニアの方でしたね」


後部座席から、田中利一が体を乗り出し、右側の助手席の窓から真一に声をかけた。


「はあ・・・藤本です。先日はどうもご馳走様でした」


「ああ、カツ丼でしたね、ご馳走だなんてお恥ずかしい。あの時私、カツ丼が無性に食べたくなりまして、皆様にお付き合い願うようなかたちになってしまいましたが、次は寿司にでもいきましょう。アハハ」


「オーバーヒートですか?」


真一はまずそれを聞いた。


「そうではないんですよ、つまりね・・・ガソリンが切れたのですよ。何しろ1リットルの燃料で2キロ走れば上出来な車ですから。アメリカの砂漠を走るような車で満タンにすればかなりの距離を走ると、お思いでしょう?ところがですね、満タンでも300キロと少ししか走らない。向こうは砂漠の途中にもガソリンスタンドがあるそうですな。こうなると1リットル10000円でも買いたい気持ちですよ、アハハ」


ミラクル・ローテリーですら1リットルで3~4キロは走る。何と言う不経済な車であろうか。


アメリカは、やはり持てる国、世界の超大国なのだと、真一はあらためて思った。それと同時に田中利一の、このような事態にも平静で穏やかな、しかも軽くジョークまで飛ばしてみせる軽やかな神経とでもいうのか・・・その姿勢には敬服した。


「いかがです?私の軽にお乗りになりませんか?ミラクル・ローテリー・・・体験なさってみるのもよろしいかと思いまが」


「本当ですか!!しかしこの渋滞ですと・・・」


「御殿場インターで降りましょう。そこから少し面白い裏道を通って、出るところまで出るということでは?」


「いいですね~!運転手はここでガソリンの到着を待ちますので、私だけお邪魔させていただきます」


どうも、田中利一という人物は年齢の割に言葉、仕草が時折えらく年寄り臭いように真一には感じられた。


御殿場インターを降りると、道は意外に空いていた。平日であったため、渋滞の原因を作っていたの

はほとんど長距離のトラックや営業の車で、御殿場周辺は、いつもの交通量であったが、やけにパトカーが、あちらこちらを巡回しており、気配は多少緊張した空気に包まれていた。


「何かありましたかね~???外国から重要人物などが来日すると、御殿場周辺は基地がありますから警戒が厳しくなるのですよ。田中さんは何かお気づきになるような点、ございませんか?」


真一は探りを入れている自分を多少いやらしい人物ではあると自覚しながらも、田中利一は、少なくとも国政に関与しているらしき人物であることはわかっていたので、一応は聞いてみた。


「実はですね・・・ここだけの話にお願いできますか?」


「もちろんですよ」


「来ているんです、芦ノ湖に」


「どなたがですか?」


「その重要人物ですよ・・・男装したSPに化けて芦ノ湖に到着しました。今、私の親類が世話をしています。日本語は堪能で、通訳などまったく要らぬ才女ですよ。日本で言えば邪馬台国の卑弥呼でしょうな」


「女性ですか!!!????」


「そう、世界を変えますよ、あの女性は・・・」


真一はこのような国家の最高機密であるかもしれない情報を、いとも簡単に田中の口から聞けるとは

夢にも思わなかった。


「田中さんは、東ドイツの車をご覧になったことは、おありですか?」


「いえ、もちろんありません。藤本さんはご覧になられたことがおありですか?」


「ねじ一本まで分解しました。とても車としては、日本の軽自動車初期にも及びませんが、ひとつだけ現段階の日本車を圧倒的に抜き去っている部分があるのです」


「なに!!・・・それは何ですか??」


「エンジンです。貴重な情報をいただきましたので、お返しに私の秘密ガレージをお見せしましょう」


そういうと、真一は一気にアクセルを踏み込み、ミラクル・ローテリーの回転を急激に上げた。

車体は舞い上がりそうな加速で他車を抜き去り、アッという間に、東邦工業の正門に着いた。

車に貼られた社のステッカーは、守衛の検閲を素通りする責務を果たし、2人の乗った軽自動車はそのまま、真一専用のガレージの中に入って、自動シャッターがゆっくり下りた。




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