第11話「秘密裏に」
ドイツは第二次世界な終結後、東西に分かれその後冷戦状態にあったが、いつの日にかその国境の厚い壁は崩されるであろうことは、世界情勢の急速な変化により、もはや大きな障壁を経ずして可能である・・・というのが各国トップのおおよその見方であった。
藤本真一は、東ドイツの乗用車を一台手に入れていた。普通であればとてもお目にかかれぬ珍品であったが、スクラップとして中国に流れたものを、鉄くずの一部として買い取った。
時の総理が日中国交を回復したばかりで、一気に中国からの物資流入が活発化したために可能となったわけである。
真一は、その車をバラバラに分解した。単純で安価な部品の寄せ集めは、占領下にあった日本が占領軍を刺激しない程度に作り始めた自転車と比べても劣るような、とても自動車と呼べるようなしろものではなかった。
それでも一つだけ感心したのはエンジンであった。2気筒4ストロークの、商店が配達に使うバイクのエンジンに近いもので、曲がりなりにも4つ輪と雨風を防げる車体を何とか動かしていたわけである。
日本はオイルショックでガソリンの高騰にトイレット・ペーパーさえも不足するほどの異常事態を迎えていたが、かといって、車は必ずしも経済車の開発に各メーカーこぞって同じ方向を向いているわけでもなかった。極端に燃費のよくない車は、生産ラインから消えたが、経済車として、このような事態を迎えたこの時期にこそ売れてしかるべき、360ccの軽自動車の売れ行きはなぜか各社とも低迷していた。
しかし、オートバイ生産トップのハンダ技研は、そのオートバイの2気筒エンジンを利用してついに独自の軽自動車を開発、売り上げのグラフは他社を尻目に鰻上りを続けていた。
(ハンダも、こいつを手に入れたんだ・・・これなら次世代軽自動車の先駆を切れる!)
真一は東側車のエンジンのねじ一本まで分解し、素材、日本車との違いを入念にチェックした。
ちょうどその頃、羽田に一機の中型特別機が着陸していた。
機は、就航し始めた大型旅客機の陰に隠れる位置に機体を移動し、やがてそこにタラップが数人の作業服を着たメカニックらによって、こそこそと設置された。
機体の中央扉が開くと、そこから黒いスーツを着たSPらしき人間が数人、周囲をうかがうようにゆっくりタラップを降り始めた。その人数は約10名・・・主要人物と思しき人物が降りることなく機の扉は閉じた。全員アジア近隣諸国の人間のようであったが、日本人に比べ幾分目の彫りが深い。
そのSPらしき人間たちは、そのまま、数台の用意された車に分乗して、そのままあちらこちらに走り去った。
その中の1台は、数時間後、芦ノ湖のとある高級ホテルに到着した。ホテルの玄関では、30そこそこのサラリーマン風に見える男が背筋を伸ばし、たった一人でSPの一人を出迎えた。その光景は、到着を迎える部下とその上司、それ以外の何事でもないように見えた。




