八 バーガー
死神は、人に見られる見られないを自由に変えることができる。ただし、殺さなければならない標的には必ず見えている。死の直前まで見えないのはいつも死角に潜んでいるからだ。
裏路地ならばいちいち死神が他人に姿が見えるようにする必要はない。ただ、大通りであれば人が多く、しょうじが変な独り言を言っているように周りから思われてしまう。
「ねぇしょうじー早くしてよ、うちこれ他人に見せるの結構疲れんだからね?いいご飯食べて回復しないと!」
本来、死神は姿を見せない。だがこのしょうじに付きまとっている死神はコスメ色々で死神特有のマントも着けていないし、鎌もしまっている。そうなれば見た目はただのギャル。ちょっと見た目上、年の差があるように見えるので、アレかと思われそうだが……実はギャルの方が年上なわけだ。
「よし、ここ空いてそうだし入るぞ」
「ハンバーガー?しょうじの家の隣にもあんじゃん。もっと豪華なのがいい!」
「十分だわ。和風ハンバーガーだってよ。ってか俺の金でついてきてんだから文句言うなよ」
「はーい」
二人はテーブルに案内される。
「んー、どれにしよっかなー太りたくないからねぇ」
死神はメニューに指を走らせる。
「死神って太ったりするのか?」
「いや、太んないよ。大体死んだときの見た目そのまま。変わることはほとんどないよ」
しょうじは彼女のことを見た。目の前には若そうな、女子高生くらいの女の子が座っているようにしか見えない。
「お前……」
しょうじは過去を聞こうとしたが、自分を止めた。他人の諸事情を聞く者ではない。ましてや死に方なんて……
「あーうちのこと気になる?……そうだよね、うち若く見えるっしょ?」
「あ、いや悪い。そう思って聞こうとしたわけじゃないし……いやそうだけども、言ってくれとは!」
「うん……その話は、今はまだかな」
少し気まずい空気になってしまった。二人とも別々に小声で注文する。
しょうじが気まずい空気を破ろうと、何か言おうとした瞬間。
「はい、お待たせしましたー」
店員が料理を運んできた。
死神は一瞬で顔を上げる。
「うわっ!」
テーブルに置かれた、巨大バーガーに目を輝かせた。
「切り替え早いな……」
そう言いながらもしょうじは自分の目の前にあるハンバーガーによだれを垂らしそうだ。ソースが滴る肉はとてもうまそうだ。
いったん忘れてこの味を楽しむか。
そう思い切り一口かじる。
押さえていた手が液まみれになったが、口の中に広がる熱く脂っこいチーズと肉のコンビネーションが素晴らしい。これらの柔らかい弾力と、レタスにトマトの新鮮な味。それがバンズに挟まれ、絡み合い、ハーモニーが生まれる。京都の和風ハンバーガー。これは絶品だ。
「……だ」
と死神がしょうじの脳内を完璧に当てて食レポを代わりにする。
口がいっぱいのしょうじは嚙みながら賛同に頷いた。
「うんうん、もぐもぐ」
「じゃあうちも」
二人とも食べ始めては止まらず、ガツガツと食い込む。
「ふうーっ、結構大きかったな」
しょうじが腹を押さえて死神を見る。彼女はもう食べ終わっていた。
「食べるの早いな……」
「おいしんだよー。ほんとは死神だから食べなくてもいいんだけどさ、今日の昼とか夜とか、味は楽しめるってわけよ。お腹いっぱいにもならないってわけ」
「お前……」
昼の弁当と今の夕食をぼったくられたような気分だ。
「あ、ほらしょうじ。まだポテトフライが残ってるよ?」
気づけば、死神がポテトフライをもってテーブルの上で腕を伸ばしている。先端がしょうじの唇に触れそうだ。
「馬鹿な、ポテトは食べたはず……」
「いやぁ?ここに残ってるけどなー。ほら、あーん」
「ちょ、何してんだよお前!」
死神は悪そうな笑みを浮かべる。
「調べはついてんよ。女の子ができたことないってね。当然、こういうこともされたことないっしょ?人生最後だし、とーっても優しい死神のお姉ちゃんがあーんしてあげようって思ってね?ほら、あーん」
彼女はポテトの塩っぽい先端を彼の唇に押し当てる。ぐりぐりと唇をどかしながら口の中へ侵入していく。
「おい、コラ、人が見てるって!」
「うんうん、見てるよ~。今まで公共の場でイチャイチャしてたカップルのこと、うざいと思いながら、自分もできたらなーって思ってたもんねー」
「うっ……」
しょうじの抵抗は続いたが、最終的には誘惑に負けてポテトのインベージョンを許してしまった。
パクっ
「どーおー、恋人の味?」
死神はまた同じ笑みを浮かべる。
「ポテトの味だよ……」
少し体が暑いなとしょうじは感じた。
「ほら、食い終わったならいくぞ死神」
「はーい」
二人は会計を済ませてホテルに無事戻るのだった。
ただ、帰り道に二人があまり話さなかったのと、しょうじがモジモジしていたことは、死神はしっかりと見ていた。




