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七 横取り

 この子から聞いてみるに、死後の世界も案外似ている。

 死神は仕事に応じて給料が貰え、この貧乏呼ばわりされている死神はコスメに給料を使いすぎたと言うわけだ。


 二時間かけて、二人はようやく京都駅に着く。


「ほら、行くぞ。新幹線の中で予約した残り物のホテルだ」


 観光客の人混みを抜けて駅から離れる。案外、京都でも人がいないところが駅近にある。川に沿って二十分、二人はホテルに着いた。


「おおー!結構豪華じゃん?残り物はどしたん」


 死神がパチパチと拍手する。


「高いから残ってたのかもな。どうせ最後だし、いいとこにしようと思って」


「うちのためにー?」


「俺のためだ」


「えー」


 しょうじはひとりでチェックインをする。それも二人部屋に。


「やったー!」


 死神はふかふかのベッドシーツの上で飛び跳ねる。


「まだ四時か」


 しょうじは時計をみる。


「どっか探索しとくか。行くぞ、死神」


 荷物を置き、ホテルを出る。


 人がにぎわう京都中心の大通りを避け、穏やかな道を歩く。京都と思えば、こういった静かな町を思い浮かべるが、どうしても実際に行くと観光客で視界が埋まってしまう。こんな裏路地のような京都も悪くない。


「それで、俺が行かされてるのは閻魔様のミスなんだって?」


 しょうじが確認すると、死神は人差し指を唇に当てた。


「しーっ!しーっ!どこでどいつが聞いてるか分からないって」


「分かったよ……」


「まあ、短くまとめるとね」


 死神が小声で話す。


「お偉いさんがショージを生かせたままにしちゃったから、バタフライ効果で重大な事故が起きる前に殺さなきゃいけないの。いつ事件が起きるかは分からないけど、少なくとも一週間以上あとだからこうして旅行に来られるし、うちは給料が特別高かったから……」


「給料が高いから俺を殺すのか?」


「いや、まぁ、うん……でも顔がちょっといいなって思ったから。うち不細工は殺さないの」


「それはそれはありがとう?」


 二人は今度今までそって来て歩いた川に降りる。夕日を流れが反射して乱れた橙色の光線がコンクリを照らす。

 

「んー、まあ藤さんが言ってたのは、お偉いさんのイメージを守るためにしょうじをなかったことにしたい死神とか、うちの代わりに殺して高い給料をもらおうとするとかそういう死神がいるから気を付けなってことね」


「死神世界の競争って激しいな」


「閻魔様に認められれば良いこといっぱいでさー、例えば、ひとつだけ好きなものをなんでも頼めるとか!うちだったらメイク用品かなー?魔界の最新のやつ!」


「は、はぁ……」


 なんだか勿体無いなとしょうじは思った。


「んで、この仕事が終われば好感度爆上がり間違いなしってことじゃん?」


「そうなのか……ところで、俺も死んだらお前みたいな死神になるってことか?」


 死神は流れる川に目を背ける。花びらがヒラヒラと舞い落ち、川の流れと接触した瞬間に消える。


「お偉いさん、恥ずかしがり屋だから……」


 大きな風と共に大量の花びらが舞う。


「魂ごと跡形もなくなると思う」


 しょうじは何も言えなかった。

 死後の世界でも、こいつと一緒ならとか思い始めていたが、他人のミスのせいで自分は存在を抹消される。

 

 そのとき、後ろから大きな音が聞こえ始める。


 ドドドドドドドド……


「何の音だ?」


 しょうじが後ろを見た瞬間、巨大な波が川幅全体に広がって押し寄せてきた。彼らの歩いていた川辺も飲み込まれていく。


「ショージ早く、こっち!」


 死神はしょうじを立った今降りてきた階段へ誘導する。


 パニックで滑って、しょうじは何度も段を滑り落ちる。


「早く!」


 波が近づいている。


 しょうじは両手を階段につけて四肢で登る。


 あと一週間で間違いなく死ぬというのに、ここまで死を拒むとは……


 波が来る直前に死神は何とかしてしょうじの手をとり、彼を引き上げる。踵の先端に触れるくらいに波がかすった。


 通り過ぎたすぐ、波は崩れてただの水となった。


「ほらね、ショージ。他の死神だよ今のは。姿を隠してるけど、ショージをこんな風に殺そうとしてるやつとかがいるんだよ。人気のないところだから狙われやすいのかな」


「そうか……」


 しょうじは踵をチェックする。少し濡れていて、水滴が靴からポタポタ垂れる。


「よし、そうならば、夕飯は賑わってるところにするか」


 震えた声でしょうじが言う。


 二人はお腹を鳴らしながら急いで駅に戻るのだった。

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