五十五 夕方電車の窓で
アーケードゲームに満足した二人は時計を見ると、すでに五時を回っていた。
「もうこんな時間か」
しょうじはスマホで河原までのルートを調べた。
「一時間くらいかかるっぽいから、六時前には行きたいな」
「じゃあいっぱい花火買わなくっちゃだね!」
死神がレーシングゲームの椅子に立ちながらしょうじを見下ろす。
「いや、リュックの中に入ってるので十分だろ?」
「えーもっと欲しいじゃん!」
「いいや、いらんいらん」
「えねーお願い!お願いお願い!」
「いらんいらん!」
「お願いお願い」
「いらんいらん」
「夜ごはんあんまり食べないでおいてあげるから!」
「そういう問題じゃ……使い切るか分かんないだろ」
「プリーズショージ!」
「はぁ……店寄ってくか」
「いぇーい!打ち上げも買おうよー」
「それは絶対に買わない」
「えー、けちんぼ」
勝利の鼻歌を歌いながら、死神はクレーンゲームでとったぬいぐるみを、自身の特別な鞄にしまった。しょうじに着いて行き、ゲーセンを出た二人は夕日に照らされる。
「うおっ、眩しいな」
「ずっと暗いところいたかんねー画面見てたし」
「暗いのに目が慣れちまったな」
しょうじは擦りながら目を細め、明るさに目を慣らそうとした。
「あんなに暗いところで画面見てたから目悪くなっちゃったんじゃないのー?」
死神が面白そうに言う。しょうじの目を観察しながら、自分の瞼を指で上げてしょうじに見せた。
「気持ち悪いぞお前……あと俺の母親みたいなこと言うな。普通に画面見て目悪くなるの嘘だから。スマホとか至近距離で顔面にくっ付けてるからいけないんだぞ。俺の友達なんて毎日徹夜ゲームしてたのに全然視力良くって、俺も中高の時マジ夜中まで画面見てたけど……」
「はいはい。分かりましたよーだ。うちが知る限りでも死神の記録に視力が100%画面のせいで下がった人なんていなかったと思うし。ていうか、早くショージの両親に会いたいなぁー。どんな人なんだろう?ショージに似てるかな」
「明日連れてってやるから落ち着けって……だから変なことすんなよ?」
「変なことって、うちをそんな子だと思ってたの?!」
死神はショックを受けたように腕を胸に寄せ、上半身を後ろに反らせる。
「え、うん」
「ショージのばかぁ!なんてねー」
「未だにお前のキャラが全く掴めん……」
「みんなの大好き死神ちゃんだって」
「世話焼き貧乏神の間違いだろ」
「あーっ!言ったなぁ!」
死神がしょうじの腕を軽くボカボカ殴りながら花火を買いに行った。
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午後七時、しょうじたちは電車に揺らされながら窓から荒川を見下ろした。五時に明るかった街はいつの間にか街灯が灯り、空はすっかり暗くなっていた。都心からますます離れた地は大阪や都心と違い、夜の活発感は朝ほどではない。人も、車も気づけるほどに減っていて、ようやく街が眠りにつきそうだった。
そんな静まり返る街の中、川岸に見える広場で沢山の橙色の光が揺れていた。
「おっ、なんか祭りでもやってるっぽいな」
首をひねって背中側の窓から外を見ていたしょうじが、死神の肩を叩いた。
「ほんとじゃん!行きたい!」
死神は身体全体を窓に向けて、膝立ちで席を使ていた。
「良し、じゃああの辺の河原で花火をするか。その前にちょっと祭りを味わって行けばいい」
しょうじは窓に手を押し付ける死神に視線を戻した。夏祭りを楽しみにしていた昔の自分が映る。
「懐かしいなぁ」
「何が?」
死神は興味津々に窓から遠ざかり、しょうじの話に耳を傾けた。
「俺、すっごく小さいころ夏祭り行ったんだよ。家族と」
しょうじはスマホのありもしない写真を探してスクロールしていた。
「六つだったかなぁ。すっごく家族で行くの楽しみにしてたんだよ、夏祭り。でも小こい頃のもんだからさ、はしゃぎすぎて何日も眠れなく、冷房をガンガンにしたまま毎晩過ごしてたら、夏に四十度の熱を出しちゃって……」
「ありゃりゃ」
「行きたいって唸りながら両親に寝かされたよ。朝起きて祭りが終わったって知った時はもう喉が腫れるほど泣いちゃって……」
「結構みじめな幼少期送ってんだね。もっとショージのファイル読んどけばよかったかな?」
「個人情報は止せよ」
「プッ……」
「何が面白いんだよ……」
「いろいろとね」
死神は口を押えながらニヤニヤしていた。そのあとしょうじの手首を掴む。
「じゃあ今回はうちが一緒に行ってあげるね?だからいっぱい楽しも!」




