五十三 へたっぴはお前じゃ
しょうじはゲームセンターに来るが、そこまで良い思いはなかった。暇あらば仕事の休みに行くところであったが、息抜きよりも返ってストレスが溜まっていたかもしれない。
「ショージ!見て見て、あれほしい!」
死神がゲーセンに入って、すぐ目にとめたのは大きなぬいぐるみのクレーンゲーム。透明プラスチックの壁越しに見えるふわふわの物体が今にも取られたそうに押しつぶされている。
「一回三百円か……」
しょうじは財布を確認し、百円玉を三枚取り出した。
「はぁ……ま、いっか。ほらよ、本当にできんのか?お前」
しょうじは渋々死神に三百円を渡す。
「え?できるわけないじゃん。しょうじが取って!」
とてもお願いする人の態度ではない。死神は手を合わせながらウィンクすると、ちらっとぬいぐるみの方に目をやりながら、しょうじに近づく。
「まじかよ。一回くらいやってみなって。自分でとるのが楽しいんだよ」
しょうじはそんなことを言うが、彼は自分でとれた経験があまりない。クレーンゲームをやり始めたころに一発でとったことがあった。その時に自分は何か才能があるのだと、得意なのだと錯覚してしまい、以来何万、何十万と溶かしている。自分でとるのが楽しいと言ったのは経験から語る事実だが、しょうじがそれを言った理由は死神に取れない時の、クレーンに煽られ寸前で落とされたり、返ってふりだし以下の悪いポジションになってしまう絶望を味わわせてやりたかったのだ。
「そう?じゃあやってみんね」
死神は硬貨を機械に投入すると、ジョイスティックで光るクレーンを操作し始めた。アームが動かしたほうに進み、ボタン一押しで下がる。
「いけっ、いけっ!」
死神は応援しながらアームが大きなぬいぐるみの紐を掴むのを見る。紐の輪を掴んだ後、クレーンはぬいぐるみと共に持ち上がり、回収口の方へと向かう。ゆっくりと左右に揺さぶられながらぬいぐるみが大きく揺れていた。
しょうじは最初、一発で死神が紐を掴ませられたことに驚いていたが、どちらにせよ穴の直前でクレーンが開き、ぬいぐるみが手に入らないだろうと思っていた。
ゆらゆらと揺れながら、ぬいぐるみのタグがプラスチックに擦りつけられる。プラスチックの壁に当たってしまい、ぬいぐるみは吊るされたままくるくると回転し始め、かつてないほど揺らされていた。
するとポトンとクレーンが開き、死神が機械の下の口からぬいぐるみを回収した。
「見て見てショージ!取れたよ」
「は?一発でか?俺はいったい今何を……」
しょうじは驚きを全く隠せなかった。自分も最初のうちは少ない数で取れた気もするが、しばらくは札を何枚も崩してフィギュアの箱を少し手前にずらせたくらいだった。久しぶりにこんなに気持ちよくすんなりとゲットしていた死神を見て、しょうじは嬉しく羨ましい。
「ま、まぁ紐があったしな。箱のやつはむずいぞぉ」
しょうじは死神に背を向け、他の台を見て回る。するとひとつが目に入った。
「限定衣装公式コラボフィギュア?!」
しょうじも死神と同じようにプラスチックの窓越しに手のひらをつき、中身を眺めていた。
「これはやるしかない」
ずっと狙っていたキャラクターということもあり、しょうじは取りたくなっていた。死神があんなにすぐ取れたなら、今日はいい日なのではないか。そう信じてクレーンを動かした。
「うーん、あんまり進まないな。でもちょっとずつ……」
しょうじはいつも通りに苦戦していた。動かない箱、何も掴まずに戻っていくクレーンアーム。
「あれ?ショージ。取れてないじゃーん」
死神は自分が一発でとれたのをいいことにしょうじを煽る。
「いやっ、ちょっと回転させてポジションずらしてるだけだから。こういうのはちょっとずつ……」
しょうじは両替機で札を崩し、再度挑戦した。もう一回、そしてもう一回。またもう一回に、あと一回のあとにもう一回。もうしょうじは五千円ほど使っていた。手が震え始め、頭が煮える。
「ウーッ」
唸るしょうじは強くスティックを握っていた。
そして次アームが箱を掴んだ時、持ち上がったもののひっくり返って、角が土台に引っかかったせいで箱はスタート地点よりも取るのが困難になってしまった。
「クッソォ……」
またもや完敗。旅行から帰り、しょうじはゲーセンで金を溶かすのに戻ってしまった。
「ショージヘッタクソじゃーん!」
死神は腹を抱えて笑う。
「ああそうかい。そうだな。俺は五千円溶かして取れなかったヘタクソだな。ちょっと来い、面白いゲームを教えてやるよ……」
「ちょ、ショージ?顔怖いよ?怖いのは死神なんですけど!うちを怖がるんだよ。ちょっとほんとに……」
「来いや死神ぃ、ヘタクソ呼ばわりしたお前をゲームで分からせてやろうじゃないか!」
「ひぃぃぃー!って、負けないかんね、うちがショージをボコボコにしてやんよ!クレーンゲームの女王を舐めるんじゃないよー?」




