五十 消えた神器
遅延時間は短縮し、あのあと三十分ほどの遅れで乗ることができた。駅員が申し訳なさそうにアナウンスをしたが、自然の試練に対して被害をこれほどに抑えた日本の人々と技術はやはり素晴らしい。ありがとう駅員、運転手、そして裏で活躍する様々な人々。
「乗れてよかったー!」
死神が席で足を伸ばす。膝の上には先ほど買ったイチゴチョコ八ッ橋を乗せ、しょうじと向かい合わせに座っている。
「近畿旅行ももうこれで終わりか……」
しょうじは切なそうな顔をする。一週間は長い。七日間の168時間。10080分の604800秒。長いように思えるが、一瞬にして過ぎ去ってしまった。今までで一番早い一週間だった。そして旅行終わりというのもあり、しょうじの心は少し揺らいでいた。旅行は行きが一番楽しく、帰りが一番楽しくない。子供のころから自分に言い聞かせていたことであったが、大人になった今でも変わらぬようだ。
「この四時間もきっとあっと言う間なんだろうな」
しょうじがボソっと言うと、死神は八ッ橋を開封し、ひとつしょうじに渡した。
「それはうちと居て楽しいから一瞬で時間が過ぎちゃうからでしょ?」
死神はまたニヤニヤしている。だが、しょうじは戸惑う様子もなく、窓のふちに肘をつき、手の上に顎を乗せて頷いた。
「そうかもな」
「ばっ、そこは否定するとこじゃん!」
死神が少し赤くなる。恥ずかしさをごまかすために八ッ橋を頬張った。
「なんだこいつ」
「てか、八ッ橋って硬い奴もなかった?」
「話逸らそうとしてるなお前。硬い奴は値段に合わないと思うんだよな。柔らかいののほうが美味いし。硬いのが欲しかったのか?」
「いや?」
「なんだこいつ」
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しばらくすると、新幹線は静岡県に突入した。
「あっ、ショージ見て見て!ふじさんだよ」
死神が窓の外を指差すが、しょうじは来るとき何があったかをよく覚えているので、騙されない。見上げぬまま、窓に向かって手を仰ぐ。
「あー、はいはい。藤さんね」
「違うよ、ふじさん」
「え、富士山?」
しょうじは今度こそはと外を見るが、最初の予想通りちゃんと富士山、を顔面で隠している藤さんが窓に現れた。
「まっじで怖いわ」
しょうじは椅子の中で小さく飛び跳ねた。
「ね?藤さん」
「なんだこいつ」
「貧乏死神と小僧。生きてたか」
富士山が顎を触りながら新幹線の窓に埋まっている。不気味だから内か外どちらかに決めていだたきたいとしょうじは思った。
「そうだ、ワシのところに若造の死神が来たんじゃが」
「あっ!あの子ね」
死神は思い出し、藤さんに紙を渡された。
「人食獣を石化したとか言うもんだから調べたんだよ。そしたらそれだ」
藤さんは死神の持っている紙の真ん中にある写真を指差した。灰色の物体で、蛇の頭が触手のように飛び出ている。
「それが石化させた道具だな。六大神器のひとつだ」
「メドゥーサね……」
下に書かれた名前を読み上げる死神。感じからして死神界では有名な代物のようだ。
「そのメドゥーサってなんだよ」
しょうじが死神に行くと、彼女は紙を彼に差し出した。
「神話とかで出てくるっしょ?髪の毛がヘビで、目を見たら石化する女。そのまんまの装置」
「へぇー。でその神器って大切そうな名前だけど?」
「そうさ」
これには藤さんが答えた。自分で見たかのように特徴と大きさを手で表す。
「あれは六大神器のひとつ。本来なら厳重に魔界で保管されているはずだ。だが最近突然行方不明となった。おそらく盗まれたんだろうが、魔界から盗むなんてそう簡単なことじゃない。神器の警備に携わっている者や閻魔様御自身でなければ持ち出すこと、いや見ることすらできん」
相当やばそうな奴がしょうじの命を狙っていると言うこと。ますます残りの二日が不安定だ。どの道死ぬ運命だが、死神と約束した以上しょうじも死神も彼を七日目の夜、深夜まで死なせる予定はない。
「とにかくだ。より一層気をつけた方がいいてことだ。つい数年前に他界から破壊神も来たようだし、魔界は近頃荒れている。影響されるのはお前らだけではないかもしれん……」
藤さんの忠告にしょうじは体を震わせる。自分の身近な人が巻き込まれてしまうのではないかと思うと、心配が増してくる。
「母さん、父さん……」
「藤さんサンキューね。ショージのこと気をつけるよ」
藤さんは死神の顔をじっと見ている。
「ああ、気をつけろよ。ワシは嫌な予感しかしない。貧乏死神、お前とて安全ではないからな」
「うん」
最後の忠告をして藤さんは富士山の前から去ってしまった。
「それってどう言う……」
しょうじが聞こうとするが、死神は反応しない。ただ窓の外、富士山の方を見ている。空が曇っていて、外は薄気味が悪い。雨がポツポツと新幹線の窓に鋭い線を作り始めていた。




