四十九 好き嫌い
六日目の朝。しょうじはいつもよりも体が重たいように感じた。自分の死が確定してから五日が立ち、今日は東京に帰る日。旅行の終わりということが人生の終わりと連鎖するので気分が重いのかもしれない。または、布団を持ち上げた時に体を半分乗っかってきている死神のせいかもしれない。
「死神?!」
しょうじが布団をめくると、死神の腹部辺りがしょうじの下半身と重なっていて、人間十字架が出来ていた。
「お、重いから早くどいてくれ!」
「んー?今うちのこと重いって言った?」
死神が寝起きのまましょうじを弄ろうとするが、彼は彼女をどかすのに必死だ。これ以上長く乗せていたら大変なことになる。
「おらっ!」
しょうじは自分の身体をひねり、死神の下敷きから脱出する。
「あー暑苦しいわ」
死神に背を向けながらしょうじが首元を手で仰ぐ。
「今日の朝ご飯は?」
何も気にせず、死神はしょうじの足首に後ろから巻き付いた。
「なんか和食系のやつだったと思う。ほら行くぞ。新幹線のために京都まで戻んなきゃなんだから」
「はーい」
二人がダイニングホールに来ると、長机がいくつも並べられていて、何人かがもう食べていた。
「新嵜さんですね」
チェックインをすると、しょうじたちは席に案内された。和食のようなレイアウトで米、漬物、味噌汁、鮭、野菜が用意されていて、中央の長机には自分でよそうためのヨーグルトや皮の向かれたリンゴがあった。
しょうじがいただきますと手を合わせると、自分の皿にきのこが追加される。
「これあげる」
死神が自分の味噌汁からきのこを探しとり、しょうじの方に入れていた。
「おいコラ、何してんだ」
「うちきのこ嫌い」
「なんでだよ」
「だって食感ぐちょぐちょだし、なんか輪ゴム食べてる感覚。あと見た目が気持ち悪い。それに毒キノコだったらやばいじゃん!」
死神はそう言いながらまたひとつきのこをしょうじの味噌汁に落とす。
「死神の癖に好き嫌いあんのかよ。死神なら毒キノコ食べれそうだけどな」
「もう見た目が無理!なめことか味噌汁の味まで変えちゃうからもう抜いても飲めなかったりするし。匂いだけでも嫌!だから早く食べてね」
またひとつ、きのこが譲渡される。
「あのさぁ……」
「ショージはもっと食べられるからいいじゃん」
「いや違くて、俺もきのこ好きじゃないんよ」
「えっ!なんで?」
「アホか。自分で説明してただろ」
死神はしょうじを無視してまたひとつきのこをしょうじの味噌汁に落とす。
「だからやめろって!」
しょうじが自分の味噌汁に箸を突っ込み、大量のきのこをつまみ上げると、死神は自分の味噌汁を持ち上げて一気に飲み干し始めた。
「やだ!」
死神はもう自分の味噌汁にきのこが残っていないことを確認済みだ。彼女はそのまま全て飲んでしまう。
「うっわ、きのこの味だ」
死神が勝ち誇った表情で空の味噌汁を置くとしょうじがその中にきのこをボトっと落とし入れる。
しょうじはにやけながら死神の嫌悪する表情を見る。
「ほら、まだ残ってんぞ」
「もういい。触らないもん!」
死神は立ち上がってリンゴを取りに行ってしまう。
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朝ご飯をほとんど食べきった二人は京都駅に着いた。あとは新幹線で四時間。昼過ぎには東京に着くので、家の近くのしょうじが気に入っているレストランで食べようと決めていた。
「ねぇショージ、なんか電子掲示板やばそうだよ」
死神がしょうじの袖を引っ張ったとき、彼は彼女が大げさに言っているのだろうと思って見上げた。そこには真っ赤に染まった掲示板が新幹線の発車時刻を記している。
「嘘だろ?!岡山で大雨、最大二時間の遅延?!」
日本の電車に乗りなれているしょうじにとっては、これほどの遅れは初めてだった。東京の十五分程度の遅延で頭が爆発しそうなしょうじは、自分たちの乗るはずの新幹線が最大一時間半の遅延と書いてあることに発狂寸前だった。
「フーッフーッ、落ち着け、落ち着け……」
急に眼が狂ったように開いているしょうじにはさすがの死神も引いていた。
「もう走って帰ってやろうか……」
「いやそれは無理だよショージ」
死神がその場はうまく彼を宥め、ギフトショップで時間を潰すことにした。
「大雨だし、しょーがないじゃん。うちらのせいじゃないし、うちらには何にもできないよ」
「絶対お前の上司だわ。その閻魔様とか言う奴が俺を帰らせないために大雨にしてんだ」
「しーっ!ショージこそ声がデカいよ。あとあの人じゃなくて天気担当は別」
「本当に神の仕業なのかよ」
「そんな降る降らないの簡単なことじゃないけど、うん」
「ハァ……じゃあ八ッ橋でも買ってどっか座って待つか」




